君に夢中



「……ちっ」


やられた。完全にやられた。俺が昼寝している間に……


足袋を脱がされた。


くそっ、俺に裸足でいろということか?よくよく見ると草履もねえじゃないか!まじで裸足じねえかよ!あと30分で隊首会あるっつーのに!



「花音ー!……………」



………………返事がない
やはりこいつの仕業だ

怒ると俺の物を隠す癖がある花音
何故かはわからない。構ってほしいのか、恨みの行為なのか。とりあえず俺が毎回かなり困っているというのは確かだ。

過去には、俺の昼寝中に一体どのように外したかは定かではないが、腰紐がなくなっていた時はさすがに感心した
…袴がずり下がってくるという悲劇は起きたが。



「花音ー……ったく、しょうがねえな」



隠し場所は決まっている
花音の隠れ場所も決まっている

俺は執務室を出ると、真っ先に隊舎裏へ向かった



「花音」


俺が呼ぶと、小さな花音の肩はびくっとした



「何してんだこんなとこで」

「なんでもない」

「…足元…寒みいな…」


わざとらしくそう言うと、花音は俺の方を向いて俯いたまま俺の足袋を差し出した


「………俺、裸足なんだよな…」


さらにわざとらしく言うと、花音の懐から草履が出てきた


「冬獅郎、私怒ってるよ」

「ああ……」


花音が何故怒っているかは、大体検討がつく。だから、俺は花音を強く抱きしめた


「花音、好きだ」

「…ほんと??」

「誰よりも好きだ、…だからそんな拗ねるなよ」


俺が他の女隊士と話し込んでいたのを見て嫉妬したんだろう。それが仕事のことであっても、花音を怒らせるには十分過ぎる理由になる。


「なんで、冬獅郎はいっつも私以外の女の人と話すの?」

「それはしょうがねえだろ?」


俺がそう言うと、花音は更に拗ねた顔になった


「わかってるけど…、でも…いつ見ても嫌だ」

「だからってなんでも隠すなよ」

「だって…、そしたら冬獅郎がこうやって迎えに来てくれるでしょ?」

「…はっ」


本当に、可愛い奴だ
花音は俺を知らず知らずのうちに離さない術を持っているんだ


「俺結構困ってんの知ってるだろ?」

「冬獅郎が迎えに来てくれるし、反省もしてくれるし、一石二鳥だよ」

「ほんとお前って奴は…」


馬鹿だなって言うのが正直な感想だ

しかしそんな花音を誰よりも愛している俺も、相当な馬鹿なのかもしれねえな





君に夢中
(俺だってたまには嫉妬くらいするんだぜ?その時は、覚えてろ)





「隊首会あるから行ってくる」

「ね、冬獅郎」

「なんだ?」

「隊首会終わったら、たくさん構ってね」


……ああ、やっぱりこいつを俺は、離すことはできない


「花音」

「なあに?」


5歩くらい歩いたところで、花音を呼び止めた。


「少しだけ、こうさせてくれ」


そしてもう一度、抱きしめた


「少しじゃなくて、ずっとこうしてて」


花音が少し笑いながら、俺の背中に手を回した


「冬獅郎ってさ、意外と甘えん坊だよね」

「お前にだけだ」



俺が甘えられるのは花音だけだ



ぎりぎりで隊首会には間に合ったが、俺がずっと考えてたのは、ソウルソサエティの異変でも、隊が赤字ぎりぎりの事でも、11番隊が良からぬ事件を起こしたことでもなく


…だりーな、早く隊首会終わんねえかな



そればかりだった




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