希望

誰からも愛されなかった。
そんな人生でした。
唯一無二の貴方からも愛されなかった。

こんな人生、要らなかった。
消えてなくなってしまえばいいと何度も何度も思った。私の命を誰かに明け渡したいくらい。

何故、生きたいと切に願う人の願いは叶えられないのだろうか。未来に希望を見出し、ひたむきに前進しようと運命にもがく人がいる一方で、毎日を無機質に生きて、この命を軽率に扱う私のような人間が今日も憎ましいくらいに健康に一日を過ごす。

こんな事、あってはいけない筈なのに、今日もまた、私は目を覚ます。嫌気が差すくらい、健康に。




消えろって言われたって、消えたいのは私自身。邪魔だって言われたって、自分が邪魔な事くらい分かってる。この身体がいらないの、誰も幸せに出来ず、誰も救う事も出来ず、ただ誰かの邪魔になり、誰かの気持ちを害する私なんて、いらない。

だから、死神になった。
自分で死ぬ事も出来なくて、痛みが怖いから。戦いの中で、与えられた任務の為に消える事が出来ると思ったから。



「......痛い、」


でも、やっぱり簡単には殺してはくれない。私の人生は私の思い通りになに一つならない。あんなに恐れていた痛みは私を容赦なく襲い、呼吸も苦しい。なのに、失神すら出来ず、ただ地面に倒れもがき苦しむこの様、滑稽ね。

そしてあんなに消え去りたいと思ってたのに、今度は心が助けてくれと私に語りかける。

生きたからって、何にもならないのに。なのに、何故生きたいと願ってしまうのか。...それは、心の何処かで救いがあるのだと、まだこの世界を見捨てていないからなのだろう。...そして、きっと私は私を見捨ててはいないのだろう。

苦しくて、痛くて、寂しくて、悲しくて。
今更何を望み、何に期待をしたところで私は此処で果てるのだろう。あんなに憎んだ健康体は、今はもはや羨望し、あんなに求めていた死は、今はもはや恐れ慄いている。
無い物強請り程、醜い感情は無いと思っていた。しかし、ある意味生きる目的にも成り得る事もあるのだろう。欲するという感情が、まだ生きているのなら。


「...奇跡なんか、馬鹿みたい」


そんな事思っても、もう遅いのだから。
さようなら、愛した貴方。さようなら、本当は愛していた、愛したかった自分。


「花音、」


光を見た。氷が、雪が、乱反射して綺麗な光が見える。冷たい感触、抑揚の無い声、それだけのヒントがあれば十分だった。貴方が私に触れている。


「...死ぬな」


愛なんて知らなかった。ずっと、ずっと恐くて、冷酷で、非情。それでも私は愛していた。貴方から愛されたくて。その氷のような瞳に宿す熱に魅了されて、貴方を信じることが、光に向かって歩んでいけると思っていたから。


「花音!生きろ!」


初めて見る、取り乱している貴方。私と目を合わせてくれた事なんて数える程しかなかったのに、ね。無理矢理私と結婚させられた事に納得いかなかったのか、更には、上流貴族の私が無理を言って死神になりたいなどと言ったからだろうか。貴方はいつも、私を容赦なく突き放してきた。

そんな貴方が、私の為に息を切らして、気持ちを、感情を見せてくれるだなんて。


「もう少しで四番隊が...「冬獅郎さん、私を殺して下さい」


だから、お願い。この生まれて初めての愛を受けたまま、殺して。きっと、私が生き延びてしまうと、また私は今までの痛みを感じる事になるなんて目に見えてるんだから。


「...言った筈だ、俺だけに着いて来いと。お前のつまんねえ人生、結婚した時から俺のもんだ。俺が全て決める、お前が生きるか死ぬかも」

「......、冬獅郎さん、ありがとうございます..」


気が付けば涙。貴方の気持ちが嬉しくて。
貴方は私を手放してくれない。心も、そしてきつく抱き締められたこの身体も。貴方のものなのだから。貴方に抱き締められた体温を感じたまま、目を閉じる。私には今までを耐えてきた強さがある、心臓の音は鳴っている、意識も途切れない。私は、きっと死なない。





希望



「俺に黙って死のうなんて、絶対許さねえ」


それは、貴方の進む道。
それは、貴方の信じた何か。



「...俺が、どこにいても花音を守るから」


そして、何かを求める強さと弱さ。
人はそれすらも希望に変える事が出来る。
また、歩き出す事が出来る。
生きる事が、希望に繋がってゆく。

だから、泣かないで、下を向かないで、辞めたいなんて、死ぬなんて言わないで、生まれ落ちた瞬間から、踏み出した一歩はもう戻れないのだから。あとは進むだけ。

貴方に止められるその日まで、進むだけ。




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