穢れた愛に救済を
このままじゃだめだ、このままじゃ。
何度思ったことだろう、しかし何度考えを変えようと所詮は人の心。染み付いた思いは変える事は出来ず、それは本人を目の前にすると顕著に現れてしまう
「...お願い、私を愛してよ」
「............」
目の前で号泣する花音
俺はその姿を冷静を装いながら、さも花音に愛がないかのように冷たく視線を送る
「ねえ、何か言って、」
「愛すって一体なんだよ、何が不満だ」
あえて厳しい言葉を放ち、花音の心がずたずたに切り裂かれていく音を楽しむ
必死な花音が好きだ、俺に愛されようともがき苦しむその姿に欲情すら湧いてくる
「冬獅郎は私が嫌いなの?」
「嫌われるような事でもしたのか?」
全く酷い奴だ、目の前で俺からの言葉を待つ愛する人にひたすら質問で返すんだ
俺からの意思表示はなにもない、だから花音はまた底のない悲しみに溺れていく
「仕事に戻れ、こんなくだらねえ話に俺の時間を奪うな」
「...ごめんなさい、」
限界まで花音の精神を追い込んだのを確認して、俺は小さな後ろ姿に声をかける
「今晩、待ってる」
返事はないが、確実に来るであろう
俺にはその確信がある。なんたってあいつは俺を愛しているんだから
しかし、花音は来なかったんだ
何時間待っても、来なかった。俺の言葉は聞こえていたはずだ、なのに...来なかった
その理由が分からない、あんなにも俺を愛しているのに。
初めてだった。俺の要求を拒んだのは。
怒りと焦りが交差する。あいつは俺から離れて行こうとしているのか。俺の元から去ろうとしているのだろうか。
「日番谷隊長、」
「どうした」
「日向五席ですが、...昨晩自害されたようです」
早朝の執務室で隊士は俺にそう、はっきりと伝えた。
笑った。そんな筈はない、と。何故、自ら命を断つ必要があるんだ、と。部下の訃報に笑う俺を隊士は怯えた瞳で見つめる。当たり前だ。俺と花音の関係は誰一人知る者はいなかったのだから。
「...日番谷隊長...?」
「あいつは今何処だ」
「四番隊に安置されています」
冗談だろう、どうせまた泣きながら俺に愛を乞うのだろう。「ごめんなさい」と言いながら、俺の発する冷酷な言葉にまた心を病むのだろう。
しかし、俺は大きな勘違いをしていたんだ。
「日番谷隊長、日向五席です。そして懐にこのような手紙が残されていました」
「.........、」
死んでいたんだ。俺の愛する花音が。愛してやまない花音が。
死顔すらも憂いに満ちて、幸せの欠片もない。
"貴方に愛されないこの身など必要ないでしょう。貴方に愛を与えられなくて御免なさい"
愛していた筈なのに、なに一つ伝えられなかった俺の愛。
このままじゃいけないと自問自答を繰り返しても同じ答えしか出続けなかった。誰よりも俺を愛し、誰よりも繊細な花音をどん底に叩きつけ、挙句の果てには自らの命を絶たせてしまった。
「この手紙、どうなさいますか。彼女に恋人は...「捨てろ、そんなもの誰も必要ねえだろ」
「ですがこれは遺言で...「さっさと捨てろ」
...ああ、これが花音が俺に対して思っていた感情なのだろうか。
穢れた愛に救済を
切なく、悲しい。そしてこの想いを伝えられず、この想いを与えられない辛さ。
一方的な不毛な感情。
俺は、花音がこの世から消えて初めて知ったんだ。
花音の苦しみと悲しみ、そしてやり場のない嘆きを。
そしてそれを今、俺も感じている事に。