愛故に愛に死す

昔々、ある絶対王政の時代に一人の王女と召使いがいました

その王女は暴君で、皆に怖れられていました


「冬獅郎、あの子殺してちょうだい」

「...はい、かしこまりました」

彼女は、わからなかった
人の痛みも、悲しみも何もかも。
何故ならこの国の全てが彼女のためにあるから、この国民の全てが彼女のために生きているのだから

「ねえ、冬獅郎、ちゃんと首も持ってきてね?そうじゃないと私安心して夜も眠れないわ」

「わかっております」

彼女の召使いは、決して彼女に逆らう事はない
何故なら、彼女の笑顔を見る事だけが彼の生き甲斐だから

「思い出すだけで虫唾が走るわ...、あの子冬獅郎に色目使って...本当に気持ちが悪い」

彼女は、彼を愛していた
だから、彼に話しかける女性は誰一人許すことができない

「.........」

非道すぎる、心が無いのだろうか
周りの家臣たちはいつもそう言っていた
だが彼は、冬獅郎だけは何も言わず彼女の側についた

人の愛し方を知らない彼女をただ一人、愛していた



「花音様、...お休みになられているのですか」

その日の夜
彼女の部屋に訪れた冬獅郎は、彼女が眠るベッドに腰掛け優しく髪を撫でる

「...冬獅郎のせいで起きちゃった、...それに、」

二人の時は敬語はなしでしょ?と、冬獅郎に優しく笑いかける
その姿は暴君とは程遠く、一人の男性を愛する純粋で無垢な女性にしか見えない

「そうだったな...、花音...」

窓から差す月の光に照らされた冬獅郎は返り血で染まっていた

「ふふ...、最高に醜い顔ね」

冬獅郎に差し出された生首を見て、上品に笑う

「冬獅郎のね、この姿好きだよ。...私のために真っ赤になって帰ってきてくれるこの姿が」

「そうか...」

その笑顔を見て、冬獅郎は自分の罪が無かったかのようにいつも感じる
それくらい、彼女は無垢に笑うからだ

「冬獅郎は、私だけの物だもん...。私の物に触れようとする女はみんな粛清されないと、でしょ?」

大きな瞳で冬獅郎を見上げる
冬獅郎は、彼女に深い深いキスでその問いに答えた






「日番谷く...「待て雛森、花音様に見られると大変だ」

しかし、冬獅郎には誰にも言えない秘密があった
月に一度数分だけ、城の中庭で会う女性がいた

その女性は、冬獅郎がこの城で仕える前からの幼なじみだった
でもそんな事、あの王女には関係ない
こうして会っている事がもし、知られたとしたら確実に...


「冬獅郎?...その子はだあれ?」

「......っ!花音...様......」

いつもは絶対に足を踏み入れる事はないこの場所に彼女は現れた

「...王女様...っ」

慌てて雛森は頭を下げる
そして、あまりの恐れと緊張であろう事か冬獅郎のシャツの裾を握ってしまった
冬獅郎がそれを振り払った時にはもう遅く、

「冬獅郎...その子を今すぐ消しなさい」

彼女は震えて冬獅郎の後ろに隠れる雛森を睨む

「花音様、こいつはっ...!こいつだけは...「聞こえなかったの?さっさと殺せって言ってるの」


その目からは涙がとめど無く溢れている

「私の命令が聞けないって言うの」

嫉妬に狂う彼女の涙は、高価なドレスをいとも簡単に濡らしてしまう

「......そんなに濡らしてしまったら、着替えを用意しないといけませんね」

冬獅郎は彼女の頬を優しく撫で、
ゆっくりと剣を抜き、そして自分の唯一の家族であり幼なじみの雛森の首を跳ねた

「...無様ね、庶民如きが私の高貴な冬獅郎に触れるなんてありえないわ」

「............っ、新しい着替えを持って来ますので、花音様はお部屋に戻って待っていて下さい」

「ええ、そうするわ、...あと、ダージリンティーも持って来てちょうだい」

「...かしこまりました、」

冬獅郎は彼女の姿が見えなくなったのを確認してから、雛森の無惨な死体を抱きしめ涙を流した

彼女の前では気持ちを顔に出さなかった
そうすると、彼女が悲しい顔してしまうから
冬獅郎には彼女を笑顔にしなければいけないから

「...............」

感傷に浸る時間も早々に、彼女のため気持ちを殺した





「冬獅郎、ちょっと遅いんじゃない?」

「...申し訳ありません」

返り血で染まったまま、淡々と紅茶を入れ、彼女の着替えをする

「花音...、俺は...人の愛し方がわからない貴方を愛してきた」

彼女にドレスを着せながら冬獅郎は無機質に話し始めた

「いつか気付いてくれると信じていた...、愚かな行動の数々を」

そして、何人もの女の首を跳ねた剣を取り出した

「貴方は純粋無垢で美しい...、だからこそ、その反面あまりにも無知だ」

「...冬獅郎、何を言っているの?......私を殺すの?私はこんなにも冬獅郎を愛でているのに、その私を殺すというの?」

彼女の顔色は今までの余裕を持った表情とは打って変わって、初めて見る、恐怖に怯える表情だった

「いいえ、俺がそんな事するわけない」

冬獅郎は彼女に跨り、額にキスをした

「俺が初めて見る顔だ...、良い顔だ、花音。...愛する人を失くす悲しみを是非感じてくれ」


そして、その剣を自らに突き刺した




愛故に愛に死す


貴方に知って欲しいんだ、本当の愛を、本当の悲しみを、...本当の痛みを
貴方を愛しているからこそ、わかって欲しいんだ




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