臆病になったんだ、逃げる癖がついてしまったんだ。
もう、傷つきたくないんだ。
「冬獅郎と行かないと意味ないの」
「俺は、行かねえよ」
「なんで?」
花音は、引き下がらなかった。そして、俺も引き下がらない。
「行きたくないんだ」
「だから、その理由言ってくれないと納得出来ないよ」
「お前だって行く理由言わねえのに、納得出来るわけねえだろ」
あの場所には行っていない。
近くを通る事すら、していない。
あの景色を見るだけで駄目なんだ。道端にある花やお供え物を見たくない。花音を思い出すんだ、最期に会ったあの姿を。
そして、あの場所に行くと嫌でも勝手に想像してしまうから。...どのように花音が死んでしまったかを。その度に救い様のない吐き気を催すんだ。
「来てくれたら、ちゃんと言うから」
「そんなの理由にならねえよ」
「...昔は、そんなんじゃ無かったのにね」
俺の中の何かがぷつりと音をたてて切れたんだ。今まで、溜め込んでいた何かが、溢れて、溢れて、自分では止められない。
「勝手に死んで、勝手に現れて、それで我儘に付き合えってか?俺が今までどんな気持ちでいたと思う、どんな気持ちで毎日過ごしてきたか、お前には分からねえだろ」
いつから俺はこんな女々しくなったのだろう、べらべらとどうしようもないことを花音に向けて喋っている。
まるで、自分が自分じゃないかのように、何も考えず、ただ口が勝手に動いて止まらない。
「お前が、花音が言ったんだろ...俺を1人にしねえって」
「...ごめん」
「なんで、今更会いにきたんだよ...!!」
その時、花音の瞳が大きく揺れた。
この花音の大きな変化で、初めて俺の口は動きを止めた。
「そう...だよね、ごめんなさい」
違う、そうじゃないんだ。会いたくて、会いたくて仕方が無かったんだ、ずっと、ずっと毎日想っていたんだ。花音を想って生きてきたんだ。
「...会いにきてごめんなさい」
なんで、謝るんだよ、違うのに。
でも、声が出なかった。止まった筈の口は、動くことをしない。
そして、去っていく花音を止めることすらしないんだ。
ただ、寂しかっただけなのに。
最悪だ、最低だ、でも、どうしていいか分からないんだ。...どうしたいかも分からないんだ。
俺は、あの頃の俺は、...何処に行ってしまったんだ。
君との空白の時間は、
ただ、ひたすら俺を最低の男に作り上げた
ただ、ひたすら俺を最低の人間に作り上げた