きっと、花音は分かっている。自分の指輪の在り処が。しかし、俺にはそれに気づかれたくないらしい。
...それは、きっとまだ俺には打ち明けたくないのだろう。
疑問が多すぎるこの奇跡に、俺はただ、流されるしかないのだろうか。
嘘が下手くそな花音。
本当に指輪を探すために現れたのなら、こんなに悠長にしていられないだろう。本当に指輪を探すために現れたのなら、もっと、必死になるだろう。なのに、決して取り乱さない姿をみれば分かる。それが本音なのではないと。
「ここの道、よく2人で通ったよね」
久しぶりに、本当に久しぶりに、高校への道を歩く。花音が死んでから、ずっと避けていた通学路。いや、むしろ、今は研究室に行くくらいしか外は歩かない。だから、散歩をするなんてこと自体が久しぶりなんだ。
「ここにあった商店、無くなったんだね」
「...そうなんだな」
もう、いつ無くなってしまったのかすら分からない。花音とよく寄り道していたこの店は、跡形もなくなくなり、マンションが建っていた。...いや、俺たちの通学路は、ここら辺一帯が、殆ど知っている建物も空気すらも、何もかもが変わっていた。
「...この店、私がいなくなってからも通った?」
「いや...、行ってねえよ」
そっか、と呟く花音の横顔はどこか寂しそうだった。何故、花音がそんな顔をするんだ、去っていったのは、俺を置いて行ったのは花音だろう。
「冬獅郎、...本当は、怒ってるよね」
「......」
何を、だなんて愚問だ。
分かりきっている。だから、何も言えなかった。お互いがお互いを探り合ってる。ずっとそうだ。せっかく会えたのに、俺たちはただいたずらに時間を無駄にしてしまうのか。
「...花音」
「うん」
気付いたのだろうか、少し俺から距離を取る花音。
「えっ、」
それが嫌だった俺は、距離を取った花音を強引に引き寄せた。驚いて少しまた距離を取ろうとする花音を更に強引に抱きしめた。
「...俺から、...また、俺から離れていくのかよ」
「...っ、ごめん...ごめんね、」
もはや見知らぬ土地と言っても過言ではない、この場所で、思い出だった筈の場所で、花音は泣いた。
「1人にさせて、...ごめんね」
...そんな事言われたら、何も言えないじゃないか。責められないじゃないか。まるで望んでなかったかのように言うなよ。
「...帰るか」
臆病な俺は、...臆病になった俺は、こんな事しか言えなかったんだ。きっと、傷つくのが怖いんだ。
「ううん、冬獅郎、...彼処にいきたい」
でも、花音は違った。
彼処、それは花音の最期の場所だった。
臆病になってしまった俺は、
「行かねえぞ、俺は」
我儘を言ったんだ。
花音の顔も見ずに。いつから、こんな風になってしまったのだろう。
俺は、変わったのか、それとも、変えられてしまったのだろうか。