俺と君の証を、
花音が現れた。
自殺した花音がまた俺の目の前に現れた。

何のために、何故、疑問ばかりが頭を埋め尽くす。しかし、花音を見るとそんな事を考える余裕もなくなってしまう。
...きっと、俺は嬉しいんだな



「冬獅郎、今日は何しよっか」
「お前、外とか出て大丈夫なのか?」
「え?なんで?」
「いや、...」

故人だから、なんて言えなかった。
花音は幽霊なのか?それにしては意識も身体もしっかりしている。こういう場合は人目に触れない方が良いのか、なんて必死に頭を巡らせていると、

「大丈夫だよ、今だけは普通の人間だから」

さらっと言いのけるこいつは、きっと何か目的があるのだろうか。花音の性格が変わっていなかったらの話だが。

「じゃあお前は何をしたい」
「...うーん......、とりあえず...」

花音は俺の部屋を見渡した。そして、

「部屋の掃除をしたい」

と、僅かしかないらしい俺たちの時間の使い方にしては、あまりにも上手とは言えない提案をした。

とは言っても、この部屋の汚さは尋常ではない。正直、足の踏み場は殆どないと言っても過言ではなかった。

「この本と資料とかプリントとかの山、どうにかしたい」
「...そんなんでいいのか?」
「そんなんじゃないよ!こんなところにいたら、気が病んじゃう」

久しぶりに会ったような気がしなかった。
今までずっと一緒にいたような、そんな心地。こんなにも会いたいと願っていたのに、聞きたい事はたくさんあるのに、何も出てこなかった。ただ、一緒にいられる事に今は浸っている。

「冬獅郎は昔から頑張り屋さんだからね」
「子どもみてえに言うなよ」

俺の研究資料やらを片付けながら呟く花音。
そこで気づく。顔も声も体も何もかもあの頃と変わらない筈の花音、しかし指輪が無かった。あいつはいつも指輪をしていたから。俺の唯一のプレゼントだった。

「どうしたの?」
「いや...、「そういうの、禁止って約束したじゃん、怒るよ?」

確信したんだ、きっと本当に花音なのだと。誰かに作られたものでもなく、俺の幻覚でもなく、ただ、俺の好きだった花音なのだと。だから、聞いてみたんだ、僅かな勇気を振り絞って。

「...指輪、どうした」

そう言った瞬間、花音の瞳が揺れたのを見逃さなかった。

「いつもしてただろ、」
「...ごめん、無くしちゃった」

そうか、と言うと花音は俺を見つめる。

「怒らないの?」
「無くしたんだろ?仕方ねえだろ」

本当は、心が軋んだ。
俺と花音の証のようだったから。
指輪を渡した時の花音のあんなに嬉しそうな顔は見た事なかったから。...俺の大切な、思い出だったから。

「......指輪、探したいの」

この一言で、理解出来たんだ。
花音が此処に来た理由が。


俺と君の証を、


探しにいこう。


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