大好きだった君と、
好きな人が、ある日死んだ。

それは、不慮の事故なんかではなかった。
それは、他人を深く恨めるような事件でもなかった。

己の意志で、決めた死だった。



「花音、...かどうかも分からねえよ...」

何故、その言葉が頭を支配した。
本当に、花音なのかも分からない程、傷だらけで、ボロボロで、ただの肉塊のようなこいつを、じっと見つめた。

死に至る程、悩みがあったのか?
死に至る程、この世界を去る理由があったのか?
...死に至る程、俺を、置いていく何かがあったのか?

毎日のように、会話をし、顔を合わせていたのにも関わらず、全く見当もつかなかった。

ただ虚無感と、何ひとつ、気づけなかった自分に腹が立ち、そしてこの花音と思われる死体が目に焼き付いて離れない。

...涙は、出なかった。



あれから数年、今でも見るんだ、花音を。夢の中で。
夢は好きだ。花音に会えるから。だから、最近の趣味は専ら寝る事になった。

その代わり、目覚めた時の虚無感、切なさ、倦怠感、やるせなさが俺を飲み込もうとする。なのに、また好きになるんだ。もう、絶対会えないのに。

...俺も、死んだら会えるのかな、なんて思ってしまうんだ。





「おはよ、冬獅郎」

目覚めた筈なのに、花音がいた。

「どうしたの?そんな顔して、変なの」

ずっとずっとずっと、会いたいと思っていた花音が俺の前にいた。夢をみ過ぎて、夢と現実の境界がわからなくなってしまったのだろうか。
手を伸ばしたら、触れる事が出来た。
温かく、か細く、俺の知ってる花音だった。

「...なんで、」
「なんでって...、会いたかったからだよ」

どうしていいか分からなかった。
抱きしめればいいのだろうか、でも、何故。
俺は、花音を目の当たりにしても、気持ちを正直に表す事が出来なかった。

それは、俺を裏切り、俺を置き去りにしていった花音に、納得していない俺の我儘な見栄もあったから。


「少しだけ、会いにきたんだよ」
「...夢なのか?これは」
「夢じゃないよ、冬獅郎が私の事ずっと呼んでたじゃない、だから会いに来たの」

こんな事があるわけない、でも起きているんだ、実際に。信じるしかない、この現実を。
...花音が死んだ時のように。

「ほら、そんな顔しないで」

花音は優しく微笑んだ。...でも分かるんだ。花音自身も、不安なんだ。俺と再会するのが。俺と触れ合うのが。

「...寝呆けてんだよ、朝は苦手なんだ」
「ふふ、」

花音の腰を引き寄せると、確かな温もりがあった。確かな香りがあった。確かな感触もあった。

花音は、花音のままだった。
最後にあったあの日のままだった。


大好きだった君と、


再び出会った君と、何をしよう


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