「なんで、冬獅郎は人と距離をとるの?」
花音は、とても人懐こい性格だった。だから、いつも周りに人がいた。そうした恵まれた環境にいたからなのか、俺のような冷めた性分の持ち主の考えは理解出来ないらしい。
「人と馴れ合っても意味ねえだろ」
「毎日楽しいよ」
「それは良かったな、俺はお前とは違うんだ」
昔から、人と親しくなるのが苦手だった。それはきっと、母親に捨てられ、婆ちゃんに育てられたという環境下から、信じて裏切られた時、傷つくと、とても痛い事なのだと幼い頃に実感していたからだろうか。
物心ついた時からこの性格は、ずっと変わらない。だから、冷たいとよく言われていた。
「私を信じて。私は冬獅郎を1人にしないって約束するよ」
「...男みてえなセリフだな」
そんな俺にすら、花音は手を差し伸べた。何度も拒否をしたのに、これ以上、俺の心に触れるなと突き放したのに、花音は俺に恋をさせるんだ。
「人を信じて、人を愛せる事の心地よさ、温かさを冬獅郎にも感じて欲しい」
信じることが怖かった。愛することが怖かった。人と関わりを持つのが怖かった。なのに、花音はいとも簡単にしてしまうんだ。だからこそ、俺は花音に惹かれた。
「大丈夫、私は冬獅郎が大好きだから」
それに、気持ちを伝えるのがとても上手だから。押し付けるわけでもなく、ただ心に響くような、そんな雰囲気で俺を包むから。
俺と花音は何処かお互いを補完しあっているような関係だった。気がつけば、一緒にいるのが当たり前で、俺は花音に依存していたし、花音も俺に依存していた。
なのに、花音はある日いきなり死んだ。
俺は、また独りになった。
俺が、愛してしまったからだろうか、母さんに捨てられた時のように。と、何度も悔いた。俺が愛さなければ、花音は死ななかったのではないかと、何度も自分の存在を責めた。ただ、この思いだけで生きてきた。
「...指輪を拾おうとしたところから、記憶がないの」
「...そうか」
俺の自殺未遂に騒然とする駅のホームを抜け、近くの公園のベンチで座る。いつも学校帰りに寄っていた場所だった。
「冬獅郎がだめになってしまうと思ったの、ずっとそれだけが気掛かりだったの」
「また、...俺の心配ばかりしてんのか」
「当たり前でしょ...、一回も会いにきてくれなかったから」
そう、一回も会いに行っていなかった。花音の葬式にも行かなかった、墓参りなど一回もしていなかった。
「私はずっと待ってたんだけどな」
君の存在は、
永遠などではないのだろう。1度、この世からいなくなってしまっているのだから。
きっと、別れが来る。2度目の別れが。
「...そしたら今ここにいるって事は、別れが近いって事なんだな」
今度は逃げなかった。花音の全てを、今度は俺が受け止めるのだから。
「そうだね、私の命日、覚えてる?その日にいなくなるよ」
花音の命日、それは2日後だった。
花音は、最後の最後に、家族でもなく、たくさんの友人などではなく、俺を選んだ。こんな、最低の野郎になった俺を。まだ愛してくれていたんだ。