アンパレ


修兵は今までになく私に謝った。修兵に近付くにつれて分かったのは、余程急いだのだろう、額の汗が顎から垂れ、背中もびしゃびしゃに濡れてワイシャツに染みている。

「本当にごめん、先生に見つかって携帯も没収されちまった」
「いいよそんな事、こんなに汗かいて走ってきてくれたんだもん」

修兵の汗を手で拭う。まだ息も切れていて、何度拭っても汗がどんどん下垂れ落ちる。

「寂しい思いさせたくなくて、花音の意思を押し切ったのに、結局寂しい思いさせて、...しかも、もう終わってるよな」
「私は全然大丈夫、そんな暗い顔しないで?」

修兵の表情は晴れない。それは、一緒に学校祭を回る事が出来なかったという罪悪感と、みんなが後片付けをしている中で私は1人で屋上にいたから、というのもあるのだろう。

「屋上にいたら、修兵がすぐ見つけられるからだよ」

適当にそれらしい事を言うと、ようやく顔を上げてくれた。

「なんか甘いもの奢ってくれたら許してあげる」
「分かった、今日は何でも好きなだけ買ってやる!」

私が一歩先に歩き出すと、修兵は私の手をいつものように握った。
何となく後ろを振り返ると、私のいた屋上に冬獅郎の姿が見えた。何となく目が合ってしまった気がして、胸にずきんと痛んだ。

「どうかしたのか?」
「ううん、なんでもない。早く行こ」

何故、胸が痛まなくてはいけないのか。たかが、一回まともに話したくらいで。きっと、懐かしいからだろう、話せて嬉しかったからだろう。だから、修兵といる姿を見られるのが恥ずかしいと思っているんだ。そう、自分を納得させた。



「修兵は、自分の学校祭どうなったの?」
「隙をついて抜けてきたからなー、そこらへんはよく分からん」

修兵は全く気にしていないかのように話す。本当は誰よりも楽しみな筈だったのに。
私の為だなんて思わないで欲しいのに、私の為という感情で修兵の行動を決めて欲しくないのに、それを上手に伝える方法は未だに見つけられない。

私が頑なに拒否するという事は修兵を何よりも傷つけてしまうのだから。
そして、それが修兵自身の首を締めてしまっている事にも修兵は気付いていない。

「あ、いや、俺のとこは明日が本番みたいなもんだからさ」

慌てて気を使う修兵がなんだか可笑しく感じて、私は笑った。その私の姿を見て、修兵は安心したのかようやく笑ってくれた。







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