ヴァリアスィオン
悲しい、そういう感情は沸かなかった。ただ、何故、という疑問だけが生まれる。それはお互いが成長しただけの事なのだろうか。だとしたら、彼に、冬獅郎に何かあったのだろうか。
冬獅郎は私の痛いくらい注がれているだろう視線を全くと言っていい程の無視をして、早急に姿を消してしまった。 せっかく会えたのに、せっかく話せたのに、何ひとつ嬉しいだなんて思えなくなっていた。むしろ、もう関わりたくないと思ってしまう程。明日からあの人の隣だと思うと憂鬱だった。
「花音!!」 「え!修兵?!なんで?!」
校門をくぐると、つい先日まで通っていた高校の制服を着た修兵が私を見つけるなり、周りの目など気にせずに大きく手を振っていた。
「会いたかったから、来ちまった」 「遠かったでしょ?学校はどうしたの」 「花音の下校時間と合うように早退してきたんだ」
修兵は私に満面の笑みを向けた。私はもう、嬉しくて堪らない。こんな遠くの街まで私のために。今日一日の疲れは、憂鬱は全てなかったかのように感じる。そして同時に、冬獅郎の事で悩んでいる私が馬鹿みたいに感じた。近くで時間を潰して、手を繋いで電車に乗る。「その制服も似合ってるな」と修兵が言ってくれたのが、とても嬉しくて私は頬が熱くなるのを感じた。
あれから私と冬獅郎が会話をする事はなかった。ただ、困った事や学校の事で気になる事があったら尋ねる程度。会話なんて事は出来なかったし、したいとも、もう思わなかった。あの冷たい瞳が私を捉える感覚は、慣れない。
知らないうちに私が冬獅郎に何かをしてしまったのか。やっぱりこんな事を考えてしまう私は、あの日にまだ後悔があるのだろうか。
優しくて、何でも出来て、何でも知っていた冬獅郎。私の記憶の中の冬獅郎。現実は思っていたよりも私にとって残酷な結果となっていた。容姿の端正さだけは残して。
「日番谷くん?」 「うん、どんな人かなって」
少しだけ仲良くなったクラスメートに尋ねてみた。その子は少しだけ考えて、
「なんていうか面倒くさそうな人。かも」 「性格が?」 「なんていうか...花音もすぐ分かるよ。あんまり関わらない方が良いって」 「関わらない方が良い...?」
あまり深くは聞ける雰囲気ではなくて、それから先は何も聞けなかった。
「...でも、良い奴だと私は思うし、みんなもそう思ってると思う。私は詳しく知らないから、こんな事しか言えないけど」 「ありがとう、なんかごめんね」
きっと私が感じている冬獅郎への違和感、それは勘違いではないという事は確かとなった。...だからといって、私が何かする訳でも、出来る訳などないのだけど。でも、何故かどうしても気になってしまった。
「ところで、明日の学校祭の一般公開どうするの?」 「あー...、彼氏が来るって聞かなくて」 「いいなー、あんなカッコイイ彼氏」 「でも自分の学校祭サボるって...、そんなに心配する必要ないのに」
明日の学校祭。転校して間もない私は、まだ勝手も分からないし、全くクラス展示にも参加する事が出来なかった。それを気遣って聞いてくれたのだろうけど、それよりも先に気遣ってくれた修兵が、どうしても来ると言ってくれていた。
「なにそれ、愛され過ぎ!」
確かに私もそう思う。 学校祭などの行事が何よりも大好きな修兵が、私の為に自分の学校祭をサボるだなんて。申し訳なくてしょうがない。何回断っても、「絶対行く!」の一点張り。何も心配する事はないのに。でも、そんな修兵が好きで、内心かなり喜んでいる自分もいた。
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