「...ごめんね」
「いや、花音が謝る事じゃないだろ」
転校しなくてはいけなくなった。親の都合で。隣の、更にその隣の町へ引っ越す事になった私は、どう足掻いても今の高校へは通う事が出来る距離ではなかった。
「絶対、毎週末に会いに行く」
「うん、ありがとう」
突然の私の告白に、大きく動揺していた修兵はしばらく俯いていた。私も転校なんかしたくない、修兵と離れ離れになりたくない。 いつ言おうかずっと悩んでいた。結局、帰りまで言う事は出来ず、今別れ際にようやく言う事ができた。
「いつ、引っ越すんだ」
「...来週には、もう」
「...そうか」
「毎日メールするし、電話もしようね」
修兵の手を握ると、更に強い力で握り返された。
修兵は初めての彼氏だった。 優しくて、かっこ良くて、賢くて非の打ち所がないような人。そんな彼と付き合っている私はとても幸せで、毎日とても充実しているし、好きで堪らない。修兵と離れる事はとても悲しい。でも、私には何故か自信があった。 ...絶対に私を裏切らない、という自信が。 だから、きっとこれからも付き合っていけると思う。私だって修兵を嫌いになる事は、修兵と別れたいと思うような事は、今までもこれからもずっと無いという自信があるのだから。
「でも遠くの町だから、デートするのには新鮮で楽しいかもね」
「なんというか、ある意味前向きだな」
修兵は、この話をしてから初めて笑ってくれた。修兵が悲しい顔をするのなんて、滅多に見たことない。だから、それがとても心地悪かった。その表情は、何処か修兵の悪い何かを写しているようで。
「大丈夫、何も心配する事ないよ」
修兵の抱擁はいつものよりきつくて長かった。
それからは、同じクラスの人達にお別れ会をしてもらったり学校の手続きとかでバタバタしていて、あっという間に引越し当日を迎えた。
「花音、準備はいいか」
「大丈夫だよ」
両親の乗る車に乗り込もうと後部座席のドアを開けると、背後から自転車のベルがうるさいくらいに聞こえてきた。
「花音!!!元気でな!!絶対、会いに行くからな!!」
修兵の声は私に十分過ぎるほど届いた。 大きく両手を振る姿は不格好で、でもとてと格好良くて。 大好きな修兵。ああ、本当にもう毎日会えなくなっちゃうんだなと初めて実感する。
「うん!ありがとう!」
私も大きく手を振ると、修兵は私の姿が見えなくなるまでずっと手を振り続けた。
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