ルヴワール


「いるわけ...ないよね」


幼い頃の約束なんて、約束だなんて言えるのだろうか。
時が経てば忘れ去ってしまう、時が経てばそんな約束無かった事にすらなる。
とても大事だった筈の人と交わした約束すらも、時間と共に流れていく。

自分だけが覚えているなんて、そんなの恥ずかしいし惨めだ。




「...いるわけ、ねえか」


あんな昔の約束なんか、覚えている筈が無い。必死に走ってきたものの、やけに虚しさだけが残る。飛行機が天候不良でなかなか飛ばなかった。そのせいで約束の時間を大きく過ぎてしまった。...でもそんな事、言い訳にしかならない。
雨足は強くなるばかりで、俺の肩を濡らしていく。あいつが現れた形跡も見当たらない。




「...しょうがないよね」


自分に言い聞かせた。何年も前の約束だもの、お互い異なる環境の中で私だけが変わらなかっただけ。...変われなかっただけ。会いたいと、ずっと願い続けてしまった。
中学生になったら、また再び会おうと言った。親の転勤で海外へ行く事になったあの人は、中学に上がる頃には日本に帰ってくると言っていたから。

「あ、...雨」

空からはぽつぽつと雨が降ってきた。
もう帰れと神様が言っているのかもしれない。もしかしたら、あの人はまだ日本に帰って来てないのかもしれない。
...帰ろう。数年間思いを馳せていたあの人は、ここに現れなかった。これで良かった。もう、忘れてしまえるから。会えない人を想い続ける辛さから、解放されるから。

私は、数年間の淡い恋に終わりを告げた。




「...当たり前、か」

俺が遅れてしまったから会えなかったのか、はたまたあいつはこの場所に来ていなかったのかは分からない。しかし、「もし会えなくても、ここに来たっていう何か目印つけておこうね」と当時言っていた。それがどこにも見つからない今、あいつは来ていなかったのだろう。しょうがない、あんな昔の話。覚えていなくて当然だ。
俺だけが覚えていたのだろうか。諦めてはいたものの、心のどこかで会えると信じていた。もう、忘れなくてはいけないのだろう。思い続ける価値など何処にもないのだから。

俺は、数年間の淡い恋に終わりを告げた。




別々の道を歩む
平々凡々
まさにこの言葉がぴったりであるかのように。私は中学生となり部活に入ったり、勉強をしたり、...恋をしてみたり。
それこそあの人の事をほとんど思い返す事はなくなった。それは、ゆっくりと時の流れが解決してくれた。穏やかに、そして少し残酷に。

あれから時は更に進み、高校生となった今、この出来事は完全に過去となった。もう、会える事は一生ないと思っていたから。



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