徒歩では少し学校から距離のある、あのバス停に向かうと冬獅郎の姿が見えた。待ち合わせ時間の10分前なのに。昔から冬獅郎は、待ち合わせ時間よりも少しだけ早く来る私よりも、更に早く来ていた。
「相変わらず早いね」 「もう俺に話し掛けねえんじゃねーの」 「...ふふっ、」
思わず笑ってしまった。冬獅郎が不機嫌であるのは間違いないのだけど、大人っぽさを感じていた冬獅郎に、なんだかあまりにもこの態度が子供っぽくて。
「何笑ってんだ」 「ん、ごめん」 「なんだよ、話って」
冬獅郎はちらっとこちらを見ると、バス停のベンチに腰掛けた。その態度で、ああ、きっと早急に帰るつもりではないんだなって思って、それが嬉しいのと、意外にも分かりやすい冬獅郎が可笑しくて、また私は笑ってしまう。
「...てめえ、帰るぞ」 「あー、ごめんごめん。冬獅郎が分かりやすいから」 「そんな事、初めて言われたんだが」
私も隣に腰掛けると、意外と距離は近かった。 それから、他愛ない話をした。学校の話や、この街のこと、あれからお互いどうしていたか。冬獅郎と話すと楽しい。お互いがお互いを知っているから、安心感もある。
そして、ふと外を見ると暗くなっていた。
「...で、こんな時間になっちまったし、そろそろ話せよ、俺に言いてえこと」 「え?もうそんなの済んだよ」 「は?」
冬獅郎は視線を上げて、私との会話を振り返っているようだった。
「こうして一緒に何でもいいから、話したかったの」
冬獅郎は、上げていた視線を私に向けた。とても驚いていたかのように、そして、少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しそうに。
「冬獅郎ともっと話したかった。なのにこの前、あんな事言ってごめん。」 「いや、それは別に謝る事じゃねえよ」 「私は、他の人たちみたいに、あえて冬獅郎と距離を取りたくない」
冬獅郎の瞳が一瞬、揺らいだ。 心の何処かで、そう言って欲しかったとでも言うように。
修兵の言葉はいつも真っ直ぐで、気持ちがとても伝わる。それにいつも助けられて来た。だから私も、真っ直ぐな偽りのない言葉で、冬獅郎に伝えたいと思った。その言葉も、気持ちも絶対伝わると思ったから。
「屋上は、俺と花音しか知らねえよ」
冬獅郎は私へ笑みを向けた。とても眩しくて、綺麗な笑みを。
私の気持ちを受け入れてくれた冬獅郎。 この言葉が、全てを物語っている気がした。
コミュニケ 伝える
でも、私たちは一つだけ、触れていない事があった。 それは、お互いの恋人の存在。
それを話してしまうと、きっと、また離れてしまう気がして。
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