後悔した。 分かってる筈なのに。本当はそんな事思っていないくせに。私は冬獅郎に「そんな事ない」と言って欲しかったのだろう。
でも、冬獅郎は違った。きっと、傷つけてしまった。あの顔は、寂しそうな表情は、違う。私は冬獅郎の心を守るべきだった。 あれから、数週間、本当に私と冬獅郎は一切目を合わせる事も、会話もする事も無くなってしまった。
「...花音?」 「ん?どうしたの修兵」 「いや、なんか今日ちょっと暗いから」
修兵が私の顔を覗き込む。 そして、軽く頭をぽんぽんと触れた。
「何かあったんだろ、話してみろよ。頼りにならないかもしれないけど」 「うーん...、」
言うべき事ではない。修兵を傷つけてしまう事だけはしたくないから。しかし言わなくても修兵を落ち込ませてしまうだろう。 ...でも、ほんの少し、気になった。こういう時、修兵はどうするのかと。
「友達をね、傷つけちゃったの」
簡単に話をした。ようやく心を開いてくれそうだった友達を、突き放してしまったと。 そうすると、修兵は笑顔で
「また向かって行けばいいだろ。花音が突き放したと思っているなら、本当は来て欲しかったって事だろ」
と言った。簡単だろ、と自信ありげに。
「花音は遠慮し過ぎるところあるから、もっと人の心に飛び込めばいい」
修兵の言葉は的確だった。そして、「俺のとこにももっと飛び込んでこい」と恥ずかしそうに言っていて、私は笑った。
「修兵、ありがと」
私から修兵の胸に飛び込んだ。そんな事は滅多にしないから、修兵は耳を真っ赤にさせていた。それが面白くて、修兵をからかっていた。
冬獅郎に向き合おうと思った。 私は、それが出来ると思ったから。 冬獅郎を受け入れたいと思った。 私にあんな表情を見せるから。 冬獅郎と話をしようと思った。 冬獅郎が私に話し掛けてくれたから。
授業中、一か八か思い切ってこっそり冬獅郎にメモを投げた。
"放課後、屋上で"
とだけ書いて。冬獅郎は怪訝な顔でそのメモを広げて読むと、何か書き足して私に投げ返した。
"今日は完全下校日だ"
と、書いてあった。そうか、今日は放課後は学校に生徒が残ってはいけない日か。私は更にその下に書き足した。
"話したい"
と。冬獅郎をちらっと見ると、少し考えた素振りでまた何かを書き足し、私に寄越した。
"17時にこの前のバス停"
私は口角が上がった。あの嵐の日が無かった事ではないのだと分かって。
それから私は一日の授業が終わるのが、一番長く感じた。
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