コミュニケ
こんな事が起こっているのに、クラスの人たちは素知らぬ顔をしている。クラス中が静まる事はない。誰も冬獅郎を助けようとはしないし、誰もその女の子を止めようとはしない。
「昨日、なんで、電話に出てくれなかったの」 「...電源が切れたんだ、悪かった」 「掛け直してくれなかったのはなんで?」 「疲れてすぐ寝ちまったんだよ」
昨日、と言えばあの電話の事なのだろうか。私と一緒にいたあの時間。 それを隠さなければいけない、という理由はただひとつ。この可憐な女の子は冬獅郎の恋人なのだろう。
胸が痛んだ。辛い、という感情が込み上げてくる。...そうだよね、冬獅郎にも恋人がいない筈がない。何を勘違いしていたのだろう。
「...雛森、とりあえず出るか」
気がつくと、泣きじゃくる雛森と呼ばれたその女の子を抱き寄せ、教室から出て行く。 冬獅郎は私の視線に気付いたのか、一瞬こちらを見ると、何もなかったかのようにまた視線をその女の子に戻した。
「...なんで、みんな知らないふりするの」 「雛森が面倒だから。日番谷に関わるとすぐ雛森が出てくるから、知らないふりするの」
この雰囲気は、そういう事だったのか。しかし、それにしても、ではないか。
「でもあんまりだよ、日番谷くんが可哀相」 「雛森が異常なの。だから日番谷は基本的に誰とも話さない」
冬獅郎があんなに悲しい顔をする理由、それはこの雛森さんなのだろうか。でも、彼女なのだからそんな筈はない。私の中で考えが堂々巡りする。
「日番谷の事好きなの?」 「え?!そんなわけないじゃん!私、彼氏いるし」
焦りながら言う自分が恥ずかしくなった。 そして、なんだかしっくりと来ない自分もいた。...彼氏がいる、か。それは、私を縛るには十分過ぎる言葉だった。
きっとこの言葉がないと、私は冬獅郎に恋をしてしまっていたかもしれないから。 今はただ、再会出来た事が嬉しかっただけ。それ以上の感情があってはならない。私は、修兵を裏切る事なんて出来ないのだから。修兵を傷つける事なんてしてはいけない。
「...日番谷くん、大丈夫なのかな」 「大丈夫、あいつはいつも上手く宥められてるから」
それでも冬獅郎を案じてしまう私は、やはり冬獅郎を忘れられないのか。それとも、ただの好奇心なのだろうか。何れにしても私は、冬獅郎が気になって仕方が無いという事は確かだった。
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