1 上司と部下
「隊長、お時間です」
頬を切る風は冷たい。幾多の隊士達が無念に命を絶った、この乾いた地面を隊長は見つめる。
「御自分を責めないで下さい」
隊長は自分が指揮を取った部隊に多大な死傷者が出てしまった事に何よりも責任を感じている。隊長は、例え死者が数人であろうと数百人であろうと墓参りを欠かさない。それは生真面目な性格のせいだけではない。
隊長の優しさ、いや、弱さであるのかもしれない。
「隊長の俺の采配ミスだ」
「そうですね、しかし隊長がこれ程思い詰める必要もないのでは」
隊長は、隊長としての素質はないのかもしれない。あまりにも優し過ぎるから。それは強さを持った優しさではなく、全てを抱えこもうとする優しさ。隊長自身が壊れてしまうかもしれない優しさ。
「決して隊長のせいで命を落としたなんて思っていません。自分のために、隊長のために、誰かのために戦ったのですから」
抱え切れない程の命を隊長は預かっている。
しかしその命の責任を負う必要はない。そしてそれらの命の責任を負い切れる程隊長は強くないのを私は良く知っている。
「助けられなかった、俺は結局...「誰も隊長に助けてもらう為に戦っていません。それは貴方の傲慢ですよ」
強くなって欲しい。弱い隊長を知っているから。強くなって欲しい。弱い隊長を他の誰かにも見せられるように。強くなって欲しい。隊長を憧れる隊士達の為に。
「...花音」
「仕事中ですよ、隊長」
私の名を愛おしそうに呼ぶ隊長。横たわる私を強く抱きしめ、顔を近付ける。唇が触れようとした時、私はそれを拒絶した。
「私も他の隊士達と一緒。特別扱いは駄目です」
「......ああ」
「先程申し上げましたがお時間です、もう持ち場に戻って下さい」
隊長の顔を直視出来なかった。それは、私が泣いてしまうから。永遠のお別れとなるのだから。痛くて堪らない筈の傷口も隊長が来てくれたお陰で心なしか和らいでいた。
「冬獅郎、」
「日番谷隊長、だろ。仕事中だ」
自然と口角が上がった。
誰よりも優しい隊長は、誰よりも優しい冬獅郎は私をやっぱり離さない。
その優しさと温かさに私はゆっくりと瞼を閉じた。
「仕事中に居眠りすんな、減給すっぞ」
ごめんね、もう口が動かないみたい。身体も言う事を聞かない。本当にお別れみたい。
貴方を愛するということ
それは、私がいなくても毅然と釈然としていらるようにする事。
あえて「愛してる」って最後に言わなかった。キスもしなかった。
それは貴方が弱い事を知っているから。
でも、やっぱり貴方は強くなったみたい。
貴方は私に背を向けたから。
私を切り捨てる事が出来たから。
だから目を閉じる瞬間に泣いてしまった。貴方が強いから、私は最期に弱さを見せられた。
ありがとう、私の為に強くなってくれて。
その優しさと強さとほんの少しの弱さ、貴方の生き方、どうか理解してたくさんの人に変わらず愛してもらえますように。