5 裏切る者と信じる者
「今日で会えるの最後だね」
「...ああ」
暗い、暗い牢屋
毎日必ず冬獅郎は私に会いに来る
「怒らないの?」
「今更怒ることなんかねえだろ」
「...そ、」
そうは言ったものの、やっぱり少し怒っているみたい
当たり前、か。
本当なら毎日必ず欠かさず会いに来る方がおかしいもの
「...お前が自分で判断した最良の方法だったんだろ?」
冬獅郎は救われたいんだろう
信じたくないんでしょ?私の弁明を期待してるんでしょ?自分の傷ついた心を少しでも癒したいだけ
「愛していたの、ただそれだけ」
「............」
ほら、その顔。
眉間に皺を寄せ、視線を私から外すの。そして沈黙して、私の次の言葉を待つ
「ごめんなさい、貴方の思い通りの女に、...部下になれなくて」
「もういい、...謝るな」
愛しているのね、私を。
でも、私は冬獅郎を裏切った。冬獅郎以外の男性に心を許し、その男性に深く深く、溺れた。その上、なんと愚かしい事だろう、私は彼に重要機密を漏らした。一度ではなく、数度に渡って。
彼はただのスパイだった。そんなものにまんまと惑わされ、踊らされ、裏切られこのザマ。恥ずかしいこの上ない。そして、1番知られたくなかった冬獅郎には1番最悪の形で知られてしまった。
そんな無様な私も今日で最後。明日には四十六室の決定に従い処刑が行われる。
「...脅されていたんだろ?だから花音...「冬獅郎、それは違う。私が私の意思で行動したこと。私の罪はこの通り重い」
それでもまた、私を信じようとする冬獅郎。
私が裏切った事実は何ひとつ変わらないというのに。
「ここから出してやる、行くぞ」
それは、突然。看守は私よりも驚いている。「日番谷隊長殿!何を仰っているのですか!」看守の叫ぶ声も耳に入らないかのように、私のいる牢屋を開けようとする。
「冬獅郎、落ち着いて。死刑囚の私を逃がしたら貴方の全てが終わる」
「んな事お前が気にする事じゃねえ。俺の人生くらい俺が決める」
「...私、此処を出ていかないわ」
出ていかない。これ以上冬獅郎を苦しませない。それに、此処から逃げる事にきっと幸福はない。
冬獅郎の動きは止まった。でも私の手を掴んだまま。
「何故、俺に着いて来ねえんだ」
「私は貴方すらも簡単に裏切った最低の女。なのに私を信じるの?...きっとまた貴方を裏切るのかもしれないのに」
「...それでも花音を愛してる」
「私はいかない。貴方には着いていけない。...まだ学んでないの?」
ようやく、手を離した。
久しぶりに冬獅郎の温もりを感じる。まだ、この手のひらにしっかりと。
「何もかもを捨てるには早過ぎる、だから、私を見ていて。最期まで」
人生最後のキスが鉄格子越しだなんて本当に滑稽。でも、悪くないかも。今までで1番、冬獅郎が悲しそうな顔をしていたから。...私はやっぱり意地悪なのかもしれない。
貴方を愛すということ
それは、貴方の悲しんだ顔を見る事。
それは、貴方を裏切るという事。
貴方を裏切って、貴方をどれだけ愛していたか分かったの。
貴方を裏切って、貴方の悲しんだ顔をたくさん愛せたの。
だから、こんな最悪な私の為に貴方の築き上げてきた物、全て捨てないで。
「次、どこかで会えたら浮気なんかしないって約束するから」
「次じゃ遅えだろ馬鹿野郎、...あとそれに重要機密漏洩しねえ事も加えとけ」
いつか、また巡り会えたらその時は
純粋に愛しあえますように。