4 精霊廷と流魂街

誰よりも大切で、誰よりも非力で、誰よりも美しいあいつを守りたかった。

だから力をつけた。しかし、力をつければつける程、あいつの元へ通う事は出来なくなっていき、力をつければつける程、この刀は数多の血を吸い上げ続ける。
それは、あいつの決して望む事では無い。






「また、怪我をしたの?」

「...ああ、大した事ねえよ」


俺の胸元や肩にある生々しい傷を指でなぞりながら、悲痛な顔をする。こんな顔をさせるために俺はこの潤林安に花音を置いて出てきたのではないのに。


「これよりも、酷い怪我もするって事?」

「花音、何も心配する事はねえよ。ちゃんとこうして帰ってくる」


頭を撫でても、下を向いたままだった。
花音は詳しい事は何も知らない、死神も、護廷十三隊の事も。
ただ、俺が怪我をして帰ってくるという事だけ。


「冬獅郎...、人も殺すの?」

「......止むを得ない状況ならば、それは仕方ない事だ」

「それは、私でも?」


頬に手を添えると、それを払われてしまった。花音から出る言葉とは到底思えない。
それでも、俺は答えなくてはいけないのだろう。中途半端な気遣いはすぐ見抜いてしまうのだから。


「たとえ、お前でもだ」

「そう......。うん、それでいいの」


きっと、否定の言葉が欲しかったのだろう。それは気遣いなどではなく、俺の本当の意志として。

花音は俺を見た。その目は涙に溢れていた。


「冬獅郎がどんどん遠くなっていってしまうね。死神として強くなれば強くなる程に。でもそれは良い事。私の理解が足りないだけ」


その雪のように白い頬に大粒の涙を流す。
俺は抱き締める事を諦めた。俺と花音の考えは絶対に相入れないのだから。


「帰ってくる度に思うの。瞳の奥がどんどん氷のように冷たくなっていくのが。...きっと悲しい事や理不尽な事がたくさんあるんでしょう」

「.........」


きっと花音は俺を見限る。仕様がない。俺の手にした力が花音の心を傷つけてしまうのならば、離れるに越した事はない。今の俺には花音を引きとめられる自信は皆無なのだから。


「だから、私は絶対に冬獅郎を裏切らない。ずっと此処で貴方を待ってる。...冬獅郎が私といる時は全て忘れられるように」


この涙は、俺に対する慈悲の涙であったのだとでも言うのだろうか。血に染まった俺への。理解は出来ない。だから否定はしないのだろうか。何れにせよ、花音はこんな俺を愛してくれる。それは何にも変えられないくらい幸福な事だ。


「私の前ではその眉間の皺、減らして」


それは、俺を救うには十分過ぎる言葉だった。連日職務に追われながらも修行をし、たくさんの血を流して手に入れた今の地位。皆を守ろうとして手に入れた今の地位。花音を守ろうとして手に入れた今の地位。


「心だけは、無くさないと約束して」

「心はここに半分置いて行く。いつでも取りに来られるように」







貴方を愛すということ



それは、此処に戻って来るということ
愛する花音の為に



俺を理解しなくていい、蔑んでもいい。ただ、俺を待っていてくれ。
それだけの為に俺はこれからもこの理不尽な世界に飛び込んでいく。

そしてお前をただただ一心に愛していくのだから。






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