全て隊長のせいにしようと思った。
私がこうして一度は振り切ろうとしたのに、隊長が私を引き留めたから。
隊長が私の事を何も分かっていないから。
隊長は私を三席を忘れる為の道具として使おうとしているから。
隊長が、求めてくるから。
...だから、私が隊長と関係を持つのは何も悪くない。
私は断ったのだから、だから...
「許してくれますか、私を。私の罪を」
「...お前は何も悪くないだろ」
遠巻きに、そして率直に罪を請うた。
私の心を守るために。隊長が、許してくれているのだという錯覚を植え付け、隊長に溺れてしまえるように。
「隊長は、後悔していませんか」
「後悔しているとすれば、仕事を放ってこんな事しちまって、ばれたら部下に示しがつかねえって事だな」
気がつけば隊長の自室で男女の関係。
さっきの続きを、隊長の自室の香りに酔いながら本能のままに求め合った。
...それはとても艶やかで、官能的で、罪深いもので。三席を更に裏切ってしまった。今回の裏切りは最初とは比べ物にならないくらい、下品で意地汚いものだった。
「...素敵ですね」
「何だ」
「隊長は、素敵です」
しかし、これは全て隊長のせいなのだから私は悪くない。隊長は私を利用しようとしているのだから、私は何も悪くない。
手を伸ばすと簡単に触れられる距離。触れる事すら、近づくことすらままならなかったのに、簡単に触れさせてくれる。その頬も、その胸も、背中も何処でも。あんなに遠かったのに。
「...隊長、私たちは肉体関係を持ってしまいました」
「...そうだな」
「それでも私を部下として見れますか」
意地悪な問い掛けをした。隊長の行動に嘘も偽りもないと分かり切っているのに。だからこそ、だった。嘘偽りもなく私を踏み台にしていこうとしているのだから。
「公私混同なんかしねえよ」
はっきりと、こう言った。それは、私とはこのまま、このような関係でいるという事なのだろうか。一抹の不安が私を襲う。しかし、私がこんな事を気にする事が出来るような身分ではない。隊長に愛を乞うだなんて、あまりにも身勝手。だから、恋仲なんかにならなくても良い。深く愛されれば愛される程、私のなけなしの良心が痛んで隊長を再び突き放してしまうから。
「...それが、俺の唯一の後悔だ」
小さく呟くその言葉に、良心と悪心以外の何かに響き、それと同時に隊長が、弱い隊長が見えてしまった気がした。それは、三席を失くしたあの日以来、初めて見る顔。
「私は偽善者です」
隊長は、窓の外にあった視線を私に移した。
「だから、私は隊長を守れます」
偽善者と言い放ち、自分を精一杯保身しておきながらも、隊長を愛している気持ちがそれを上回る。
何年も待った。何年も見てきた。近づけば近づく程に後悔と懺悔はやはり襲いかかる。でももし、隊長も何か大きな後悔と懺悔を背負っているのならば、それが分かるのは私しかいない。
私は、本物の偽善者に成り下がった。