太陽のような人だった。皆を照らし続けるような、そんな素敵な人。三席の存在は十番隊にとってとても大きかった。私も尊敬していたし、好いていた。隊長もそんな三席を心底想っていて、三席も隊長を想っていた。隊士たちからは、いつ結婚するのかともてはやされていた程。その度に隊長は赤い顔をして怒鳴り、三席はその隊長を見て幸せそうに笑っているのが日課だった。

みんなが幸せだった。...私を除いて。
隊長を想い慕う私にはそんな毎日が地獄のようだった。完璧過ぎて妬む事すら出来ない、こんな私にも優しく接してくれる三席に。私が醜い存在なんじゃないかと何度も自問自答の毎日。

そんなある日、あの事件は起きる。
三席と隊士数人が虚退治の任務に出かけた。私は事務仕事を任せられていてその任務に同行はせず、隊長と執務室で三席らを待っていた。今でもあの時の事は鮮明に覚えている。


「遅いですね、宴会までに間に合いますかね」

「あいつの事だから宴会までにはなんとしてでも帰るだろ、心配すんな」


三席を語る隊長はいつも幸せそうで、私の心を抉る。幸せそうにしている隊長は嫌い、でも不幸せそうにしている隊長はもっと嫌い。
...私はあの二人の間に割って入る事なんか出来る筈もない。ただ遠くから二人を見る事しか出来ない。だから、ほんの少しでもこうして隊長と二人だけで例え仕事だとしても居られる事が嬉しくて、三席の帰りがあともう少しだけ遅くなれば良いと思ってしまった。

そして、私のささやかな希望は叶えられた。...それも最悪の形で。


「.........宴会は中止だと松本に伝えてくれ」


絞り出すような声で、隊長は低く私に言う。今まで見たことのないような絶望に打ち拉がれた表情をしていて、私はとても怖く思ってしまった事を今でも覚えている。

三席の隊が全滅したという事実を聞かされたのは数時間後、乱菊さんの口からだった。すごく怖かった。隊長の姿を見るのが。あんな隊長の顔を見てしまったから。「俺のせいだ...っ」と何度も自分を責める隊長を見てしまったから。

翌日、隊葬をした。隊士たちは泣いていた。乱菊さんも、泣いていた。隊長は泣かなかった。

隊長は三席の遺体が見つからない事を聞いて、「...なら生きてるんだろ」とひたすら言っている。その姿が痛々しかった。最初は周りも三席の生存を信じていたけど、数週間、数ヶ月、数年経つと、そんな人はいなくなった。


私は三席の死を確信に至らしめる証拠を持っている。それは三席の隊が全滅した現場へ行った際に見つけた、誰が誰かも見分けがつかない程無残な死体の山の中に光るシルバーリング。あれは間違いなく三席の物だった。

私はそれを見つけたと同時に、懐にしまった。誰にも気付かれないように。
誰かが見つけてしまったら、絶対隊長に報告するだろう。そんな事したら、きっと隊長は壊れてしまう、隊長が隊長では無くなってしまう。そんなの嫌だった。隊長は毅然としていて欲しい、私の憧れであり、私が知っている強くて凛とした隊長でいて欲しい。

でもこんな事は自分の行為を正当化するための言い訳でしかないのだろう。
必死にそう言い聞かすけど本当は、

...早く三席を忘れてしまえばいい。

こう思っていた事が、私を突き動かした一番の理由だというのに気付いてしまった瞬間、自分の醜さに絶望と共に嫌悪感を抱き、吐き気と全身の震えが暫く止まらなかった。

何度もこのシルバーリングを何処かへ捨ててしまおうか、正直に隊長に返してしまおうかを悩んだ。でも簡単に捨ててしまう程、私は悪にはなりきれない、だからと言って今更隊長に返す事も出来ない。...結局、悪にも善にもなれない私は隠すという陰湿な決断しか出来なかった。

...そして今こうして平然と隊長の隣にいる私は間違いなくこの世で一番、汚れていて醜くて腐っているのだろう。どの選択が正解なのかは分かり切っている。なのに私が選んだ答えは、消えない悲しみと消えない懺悔と後悔を生んでしまうような、そんな汚い物だった。



「...日向、」

「はい」

「...俺は、忘れるべきなのか?」


雨足が強くなってきたせいで、隊長の声がより一層小さく、か弱く聞こえる。


「......分かりません、でも」


大きく息を吸った。後悔と懺悔も大きく襲いかかる。そして一歩隊長に近付く度に、あの時のような全身の震えを感じる。...でも、私はそれらを全て振り切り隊長の唇を奪う。


「今だけは、忘れてくれますか?」


隊長は、触れるだけの筈のキスに舌を絡ませてきた。その感触に酔い痴れるよりも、新しい懺悔がまた私に襲いかかる恐怖と尚も隊長を求める己の執着心と醜い自己愛に気を失いそうになる。

それでも、腐ったような醜く捻じ曲がったこの愛を選んでしまった私は、どんなに愚かなのでしょう。


 

bkm
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