「今だけは、忘れてくれますか?」
私には誰にも言えない秘密があります。
それは、愛する人を傷つけるのかもしれない。それは、愛する人が救われるかもしれない。それは...愛する人が私を軽蔑するかもしれない。だから私はこの秘密をずっと隠し続けるでしょう。誰の為でもなく、ただ自分の為に。
その決断によって目の眩むような後悔と果てしない懺悔が、呼吸をする度に襲いかかる事になるとしても。





「...隊長、」

「日向か...、どうした」


また、この季節がやってきた。あの日番谷隊長が、唯一サボる季節。何もせず、ただただ窓の外を眺め一日を過ごす。私は毎年、虚無感と倦怠感に襲われる隊長をこうして自室に迎えに来る。


「どうしたじゃないです、仕事して下さい」

「...ああ、もう少しで行く」

「じゃあ隊長が来てくれるまで此処で待ってますね」


隊長の自室の前で体育座りをして待った。どうせ何時間も来ないのだろうともう知っているから。でも、私は待つ。でないと隊長は執務室にすら顔を出してくれないのだから。
風が少し冷たい、空気も乾燥している。それに今日は雨が降りそうだな、なんて事を考えていると隊長の足音が近づいてくるのが聞こえた。


「...寒みいだろ、先に行ってろよ」

「待ってないと隊長来てくれないじゃないですか、それにしても今日は早いですね」


「はあ...」と小さくため息を吐く隊長。その姿は見るに耐えないくらい痛々しい。足早に歩く隊長の後ろを少し駆け足で追いかける私。...思い出す、今年も。この季節は嫌い。隊長が隊長でいられなくなるから。隊長が心の痛みを押し殺しているのを見ているのが辛いから。


「...降りそうだな」


そして毎年、この言葉を不機嫌な空を見上げて言うから。


「降らないです」

「...あいつ雨が嫌いだから、帰ってきてもどうせ文句ばかり言うんだろうな」


...隊長は私の言葉を無視して話す。
降らないと言っているのに。降ると言ったら隊長が思い出すから、あえて降らないと言っているのにまるで誰の声も聞こえていないのかのよう。


「あいつは......「隊長、...お茶飲みますよね」


隊長の言葉を遮ってお茶を入れる。ようやく連れてきた執務室、でも隊長は席に着いたまま手を動かさない。また窓の外を眺め、悲痛な表情をする。


「どいつもこいつもあいつは死んだって俺に言うんだ、...松本も。」

「...しっかりして下さい、隊長」

「お前までそう言うのか?」

「そんな事...聞かないで下さい...」


隊長が毎日待ち続けるあの人。三席であり、私の上官であり、隊長の愛する人。この季節を忌々しいものにした犯人。
彼女は、死んだ。でも死体はない、...だから隊長は今でも待ち続ける。


「...やっぱり降ってきたな、今年も帰って来ねえつもりか。無断欠勤で給料出さねえぞ」

「......っ、」


隊長は、窓を伝う雨を眺めながら誰に語る訳でもなく独り言のように呟いた。こんな姿の隊長は見ていて辛い。きっと、毎年この日に晴れていたら三席が帰って来てくれると願掛けをしているのだろう。でも、あの日から今日が晴れた事は一度もない。


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