「だから、もうやめる。お前に縋るのは」
あいつの事は愛していた。
それは、本当だ。
あいつが俺と共にある筈の存在なら、日向は俺の中に入り込んでくるような存在だった。

ずっと、ずっと、俺を見ていた。
ずっと、ずっと、俺を想った。
そして、馬鹿みたいに素直で、俺の一言に一喜一憂して。

俺を知りたいと言った。
俺の本心を知りたいと言った。
それに、安心した。
俺は、俺のままでいいのかもしれないと。
そしてそれが、俺を救っていたんだ。
この、恥ずかしいくらいにちっぽけな心を。



日向は、俺に嘘をついていた。
それは、きっと自分を守る為の嘘だろう。
それは、きっと俺を守る為でもある嘘なのだろう。
しかし、俺には分かる。
日向の心には耐えられない事をしていると。ずっと隠し通せる程の狡賢さなど持っていないと。もともと、そんな事をする性格じゃないんだ。その証拠に、日向はついこの前まで指輪を持ち続けていた。まるで自分を戒めるように、後悔と懺悔を繰り返すように。
しかし、日向を此処まで追い詰めたのは、日向にこんな事をさせてしまったのは、俺自身の弱さのせいでしかないんだ。

結局、俺のせいだった。
守りたいものは、俺の弱さのせいで、みんな崩れてしまうんだ。
俺が俺のままでいい訳なんかなかったんだ。






「俺は、あいつを裏切ってた。だから、あいつが俺を見限る理由には十分なんだ」

「隊長は、そんな事...「俺とあいつの心は、離れたままだったんだ。最後まで、ずっと」


日向は、俺から視線を離す事はない。いつも、そうだ。俺から決して視線を逸らさない。俺がどんなに格好悪い時でも、見るに耐えなかった、あいつが死んでからのこの季節も。俺から一度も離れる事はなかった。


「日向に甘え過ぎてた」


だから、依存してた。絶対的な存在だと。きっと、俺が楽になるから。何をしても許されるから、絶対、日向は俺の元へ戻ってくるから。


「このままだと俺は、また同じ事を繰り返す。日向を傷つける」


あいつがまだ俺の中にいる。
その傷を舐めてもらう為に、日向を、こんなにも純粋な日向を利用する事なんか出来ない。

本当に大切だから、守らなければいけない。




「だから、もうやめる。お前に縋るのは」




日向は、俺の胸に額を当てた。

頬に手を添えようとした。しかし、それは止めた。頭を撫でようとした。しかし、それも止めた。

触れたら、きっと俺の決意は揺らいでしまうから。もっと、触れたいと本能的に感じてしまうから。きっと、一緒にいる心地良さを覚えてしまうから。



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bkm
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