俺のせいだった。
俺が全て悪かった。
あいつを上手に愛す事が出来なかった事も、泣かしてしまった事も、途方もなく悩ませてしまった事も。
...そして、あいつの隊を全滅させてしまった事も全て。
感情をぶつける事は、見せる事は、男として、すべきではないと思っていた。
程良い距離を取る事が大人だと思っていた。
何事もあいつの好きなように泳がせる事を美学としていた。
しかし、それは全て違ったんだ。
...あいつを理解しているようで、していなかった。
年上だったあいつにらガキ臭えと思われたく無くて、無関心の振りをしていた。
だから、こんな事になってしまった。
俺たちは、俺たちの過ごした時間は、無駄だった。
「冬獅郎、私たち、合ってると思う?」
「いきなり何言ってんだ」
「ちゃんと愛してくれないと私からいなくなっちゃうよ」
「...酒くせえよ」
たまに、酔っ払うとこう言っていた。
気に止めていなかった。酔っていたから。でも、これが本音なのに。あいつが酔っ払っていたからこそ、俺はその言葉を受け止めるべきだった。
「日向、ほんと、冬獅郎のこと好きだよね」
「隊長として、だろ」
「どうだかね、いつも一生懸命だよ。冬獅郎の為に、ね。そろそろあの子昇進させてあげたいんだけど、どう?」
「そうだな、良いんじゃねえか」
あいつの言葉には全て意味があった。
でも、俺は全て気付かないふりをしていた。あいつのほんの少しの嫉妬に。あいつが自分で消化出来ると思っていたから。
「これ、私に行かせて。」
「お前だけじゃ無理だ、松本にも行かせる」
「私だけで行きたいの、もう、乱菊さんにも頼らなくていいように」
甘かった。本当ならトップをあいつにして行かせる事なんてしない筈だった。なのに、あいつが、どうしてもとせがむから、だから許してしまったんだ。任務に行かせるという事は、命が懸かっているのに。まあ、何かあれば駆けつければ大丈夫だろう、なんて安易な考えを持ってしまった。
でも、気付くべきだったんだ。
あいつがここで命を懸けた意味を。何故、難しい任務に上司を連れて行かなかったのか。
ただ、あいつの向上心、野心なんかではなかった事に。
...そして、命を懸けるだけの存在がいた事を。
「危なくなったら絶対、助け呼べよ」
「分かってる分かってる」
こんな口約束で、俺の不安は薄らいでいたんだ。
「この任務終わったら、ちょっと久しぶりに2人で会わない?話したい事あるんだけど」
「その日、松本主催の宴会あんぞ」
「...あ、そう。そっか!楽しみだな」
気付いていた筈の変化を無視した。...何故なのか、それは信じたくなかったから。その、変化に。あいつは帰ってくると思っていたから。
話し合わなくてはいけない時が来る事なんて分かっていたから。
あいつは、真っ直ぐだった。
だから、ただでは俺を裏切らない。
死を以って、償ったんだ。
自分を追い詰めて、俺以外の男を愛した自分が憎くて、でも俺を愛せなくて。俺を愛す理由が無くて。
俺がもっと上手に愛せていれば、あいつは俺を見限る事は無かった。
俺がもっと上手に愛せていれば、あいつはきっと、幸せだった。
俺がもっと上手に愛せていれば、あいつはこの任務に1人で行きたいなど言わなかった。
俺がもっと上手に愛せていれば、
...あいつは死ななかった。
俺のせいだ。全て。俺が殺したも同然なんだ。あいつだけではなく、あいつが狂い、その他大勢の命すらも奪ってしまった。隊長としても、男としても未熟だった俺が招いた最悪の結果だった。
「ねえ、冬獅郎はさ...私を愛してるから、一緒にいるわけじゃないんだよ」
「...飲み過ぎだ」
ある日、あいつは俺と飲んだ帰り際、瞳に涙を溜めながら俺にそう言った。そして、
「私と離れられないだけなんだよ」
「...んな訳あるか馬鹿」
「自分の気持ちから逃げるの、やめなよ」
いつかあいつが酔っ払って言っていた言葉。
ずっと引っかかっていた。理解出来なかった。そしてただ、この場を収めるためだけにあいつを抱き締めたんだ。
漸く分かったんだ、俺はあいつからも逃げていた上に、自分の気持ちからも逃げていた。
...日向に、心を奪われていたことに。
それをあいつはずっと伝えたかったのだと。
あいつだけが裏切っていたのではない。
俺も、知らないうちにあいつを裏切っていた。