「...俺の救いは、お前だ」
愛していたのか、憎んでいたのか、
何れにせよ隊長に決して癒える事はない傷を与えた三席は、もういない。
それが、更に隊長を追い詰めるのだろう。
三席の本当の心の在り処など誰も知りはしないのだから。





「...何故、私が指輪を持っていると知っていたのですか」


恐る恐る尋ねる。その指輪が隊長から贈ったものでは無いにしろ、私の犯してしまった罪は、決して容易に許されるものでは無い事くらい分かっているのだから。


「お前があいつの探索から戻って来た日、執務室で夜通し泣いていただろ、あの日実は俺も寝れなくて執務室行ったんだ。...そしたら、な」


そうだった。あの日私は、ずっと執務室にいた。自分への嫌悪と後悔に苛まれ、そしてこの指輪をどうすればいいのかと。そして三席への懺悔。


「何故、その指輪を見て泣いているのか、その時は分からなかった。が、...あいつの隊葬の時、指輪を探しているという男がいたのでな」

「......っ、」


ようやく全てが分かった。
あの日、男は隊長に掴みかかり「指輪はあったか、あいつは指輪をつけていた筈だ、あんたが持っているんだろ、返せ」などと泣き叫んでいた。隊長は無言を貫き通し、周りの隊士がその男を引き離していた。

その時は、ただ気が病んでいるのか、という程度にしか感じなかった。だから、指輪を持つ私は隊長と三席への罪悪感しかなかった。


「お前は何度も俺に罪を請うた。だから、俺はその度に赦していた筈だ」


確かにそうだ。
...隊長が気付いていないなんて思っていた私はどんなに愚かだったのだろう。隊長を欺いているつもりだったのだから。


「...だったら何故、もっと早くに言ってくれなかったのですか」

「さっきも言っただろ、...俺のプライドだ。男としての、な」


そうしてまた、この人は自嘲気味に笑う。

...自分を、守るかのように。

もちろん、隊長の言っている理由も正しいだろう。でもきっと、もっと根底に心は違う事を考えているような気がした。それはとても脆くて、触れたらすぐに壊れてしまいそうな繊細な何か。


「...日向、お前は俺を欺こうとした。結局それは失敗に終わったが、数年に渡りその弱い心でよく耐えてきた」

「......大変申し訳ありませんでした」


立ち上がる隊長。
羽織を着ると、自室を出て行こうとした。

隊長の言葉の意図が掴めなかった。
私を滑稽に思っているのか、はたまた私を守っているのか、...自分を守っているのか。



「...俺の救いはお前だ」




でも、その一言で理解出来た。


「もう、貴方を欺くような事は絶対にしません」


隊長は、絶対的な味方が欲しいのだと。
愛が欲しいのだと。どんなに愛を捧げても、欺かれてしまった、裏切られた三席に絶望のどん底へ突き落とされたのだから。...怖いんだ。私がいなくなると、有り余った愛の捌け口も、欲しかった筈の愛も失ってしまうから。


 

bkm
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