蜃気楼をつかまえろ | ナノ
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「こいつの命は、やらねぇ…!」


 赤犬の拳を抑えながら言ったマルコが、私たちを振り返る。


「エースの弟を連れていけよい!ジンベエ!名前!麦わらの命こそ、――生きるエースの意志だ!」
「……!〜っ、ん…!」
「ああ、もちろんじゃ!」


頷いて、ルフィを抱えたジンベエと一緒に、海のほうへと向かって走り出す。


「っ……!〜っ、」


悲しくて、悲しくて…涙がとまらない…。
でも……泣いてなんて、いられない…!
ルフィを絶対に、護る…!


「わ、っ?」
「大丈夫か!モリガン!」


涙を拭った、その瞬間。
マリンフォード全体が、大きく揺れた。

聞いてくるジンベエに頷いて返しながら、衝撃が起こった基の場所を振り返る。


「ここから先は、おれが、相手だ…!来い!」


――するとそこには、オヤジの、大きな背中が見えて…。
でも、オヤジの居る場所と、私達が居る場所は、すごく、遠い。

オヤジと私達の間には、地面に亀裂が入っていて、――オヤジはひとり、海兵を受け持つように、立っている。



「おれァなあ、宝石とかいった財宝には興味無ェ」
「…?」
「けど、宝は好きだ」
「……?」



その、大きな背中に…。
戦争に来るまえ……モビーディック号で、オヤジと話したときのことが、なんでだろう…思い出された…。



「おれには宝がある。―何か分かるかァ?」



…そのときは、よく、分からなかった…。
 でも、オヤジのことを呼ぶマルコ達と…――そんなマルコ達を護るようにして、仁王で立つオヤジの、大きな背中を見ている今……わたしにも、分かる気がする…。


「――ジンベエ」
「なんじゃ、モリガン。わしらは早く先に…!」
「――ルフィを、お願い、します」
「!!」


ジンベエが驚いた顔で、私を見る。


「私に、なにが出来るかは、分かんないし、なにも出来ないかも、しれない……今の、この身体で…」
「お前さん…」
「…でも、やれることなら、全部…!ルフィも、白ひげのみんなも、護り…!」
「――モリガン!」


――ジンベエに強く呼ばれて、目を丸くする。
 ジンベエは私を真っ直ぐに見ると、


「お前の仲間は、ルフィくん――麦わらの海賊団のはずじゃ!」
「…ん」
「もうそろそろお前さんは引くんじゃ!ルフィくんと共に海へ逃げろ!お前さんは海軍から、一番と言っていいほどに狙われて…!」
「 私は――死なないよ」


今度は、ジンベエが目を丸くする。


「わたしはたとえ、海軍に捕まったとしても…――殺されは、しないの」
「っ、じゃが…!」
「生きてるなら、大丈夫」
「!!」
「…生きてるなら……なんだって、出来るよ」


死んでも護る…!なんて、…いや、それくらいの気持ちで、護るよ、戦う…。
…でも、シャボンディ諸島でのバーソロミュー・くまとの戦いの時に、分かった…。



「死んじゃったら…皆に会えないんだよね…」



…もう、何日間も会ってない…でも、少しも消えない、わたしの仲間…みんなの笑顔…。

――思い出すだけで、わたしを笑顔にしてくれる…。



「仲間の元へ帰らなきゃ」



――少し経って、ジンベエは固く頷くと、…また、海のほうへと向かって走っていく。


…ルフィ、わたし、どうなるか……分かんないけど…出来るだけのことをして、ルフィを護るから……!
だから……だから、絶対…


気を失ったルフィを思い出して、眉が寄る、下がる…。
でも、手を握りしめて――わたしは、走り出した。



「名前…――家族は居るかァ?」



たくさんの宝物を――護るために…。





111011