「…エー……ス…」
エースの胴体を貫通している、赤犬の、マグマを纏った拳。
その光景が、その映像が、何だか信じられないものに思える。
言葉にならない言葉が、口から零れる。
「ちょ〜っと、――惜しかったねぇ〜」
「………………」
「お前の船に名字名前が乗ったって聞いてよ。一目会ってみたくてな!」
「…エー、ス…」
「俺はエース。ルフィの兄貴だ」
「エース…!」
「名前は能力を増大とか出来んだろ?な、ちょっとやってみてくれよ!」
ぼろぼろ、涙が出てくる。
っ…泣いちゃ、駄目だ…!
泣く、な…!
泣いたら、…っ…泣いたら、エースが死んじゃうって、そう決めてる感じに、なる…!
「……ほぉんとさあ…」
静かな声が聞こえたかと思えば、私は無理矢理に黄猿の方を向かされた。
つま先立ちになる。
それでもエースの方を見ようと必死だった私は――、
「なんで君は、海賊側に居るのかな〜…。それがよく分かんないんだよねぇ〜」
抵抗を止めて、少し低めの声で言った黄猿の方を向いた。
目尻を下げて笑う顔が、何故か、違って見える。
…さっきも聞いた、黄猿の言葉、…疑問。
私は唇を噛みしめて、涙を流したまま黄猿を見上げて、ほとんど睨みつけた。
「海賊…とか」
「……」
「海軍って分けかたじゃ、ない…」
「ふぅん…?」
「海軍が、正義で……海賊が、悪…なんて、それは、いくらでも変わる…」
「…………」
「海軍にだって、海賊にだって、色んな人がいる…」
「つまり、おれたちは名前の能力を仲間にしてェんじゃなくて、名前を仲間にしてェんだ!!」
「みんなは…はじめて私を見てくれた人だから…!」
――瞬間、わたしと、私の首を掴む黄猿の手の間に、バチッ、電流みたいなものが流れた。
わたしは特に、痛くなかったけど、黄猿はそうじゃなかったみたいで、私を離した。
驚いて黄猿を見上げる。
自分の首に触れようとして、右手が上がらないことに気がついて、さっき、黄猿の攻撃を受けたことを思い出す。
そういえば右手以外も、腫れてるような、麻痺してるような感覚だ。
黄猿は呆然と、少しだけ傷がついた、自分の手のひらを見ている。
――私は、走りだした。
「――ルフィ…!!」
走って、走って。
近づいていけばいくほど、ルフィと、エースの姿が、鮮明に見えてくる。
状況が、分かってくる。
ぐらり、気を失ったのか違うのか、傾いていくルフィの身体。
「っ…!」
その傷だらけの身体を、抱きしめるように受けとめて、見た目以上にボロボロな身体に、ぎゅう、心臓が握りしめられるようになった。
笑顔のまま地面に倒れているエースを見て、また涙が流れる。
「お前さん…!」
そしたら、凄く驚いた声がして、ルフィを抱きしめたまま見上げれば、ジンベエとイワンコフがいた。
「ヴァナタまさか麦わらボーイの一味だったの?!」
よく分からないまま、でも、イワンコフの言葉に首を縦にふる。
すると後ろから影がかかって、振り向くと――
「マ、ルコ…」
赤犬の拳を受けとめ、抑えるマルコの後ろ姿が、視界にうつった。
「戦争はまだ…終わってねえよい…!」
110914.