「っ……」
ぐらり、もう何度も経験したことのある、普通の目眩とは何か違う、けれど目眩と似たような感覚に体が傾いた。
「行か、なきゃ」
一歩、踏み出す。
平衡感覚も何も無い世界を歩いているかのようで、足の裏に感じる筈の地面も、まるで何か不透明なものを踏んでいるよう。
足が、止まる。
途端に、ぐわんぐわんと渦のような気持ち悪さが身体中を蝕んできた。
「っ、行かなきゃ…!」
自分に言い聞かせたのか、何なのか。
そんなの何も分からなかったけど、ただそう紡いだ。
頑張って。
頑張ってよ、私。
まだ…まだだよ。
まだ何も終わってない。
エースを助けてない。
戦争は終わってない。
「流星火山!!!」
上を見ることなんて出来なくて、でも攻撃が仕掛けられてきたことは分かった。
――…動かない…。
手が…上がらない。
動かせない…上げれない。
「…駄目、だよ…」
動いて、動いて…!
動いて……!
―――動け…!!!
「リジェクション…!」
ぶるぶる…!と、少し斜めに上がった手を、みんなが居る場所の上空に向けて、拒絶した。
赤犬の攻撃なのか、空からマグマの塊が降ってきている。
みんなの元へ落ちようとしていたそれらの大部分が、フッと消え去った。
良かっ…た…。
でも…まだ、まだだ…。
違う場所に居る人達が…。
モビーディック号から離れた場所に居た人達。
そこにマグマが落ちて、氷までもを破っている。
「熱ィ…!」
「おい、逃げろ!」
「逃げるったって…――どこにだよ…?!」
少し遠くの、その、離れた場所から悲鳴が聞こえてきて、ぐっ…!と唇を噛み締めた。
―――ぐら、り
視界が一際酷く歪む。
ぐにゃり、と。
混ざり合う世界の中で、赤が、赤がその大半を塗り潰す。
「っ…―――」
駄目だ…だめ、だめ…。
まだ何も…何も…――。
ピントが合ってきた世界の中でマグマの塊がひとつ、私が居る場所へと向かってきていた。
斜め上からゆっくりと降ってくるそれを、ぼうっと眺めて、そしてふと、オヤジが見えた。
さっきの拒絶で私に気づいたのか、オヤジは私を見ていて。
そしてオヤジが居る、みんなが居る、場所の上空に再びマグマの塊がいくつもあって。
結構離れているのに、オヤジと目が合う。
マグマが近づいてきて、頭が熱くなってくる。
――落ちてくるマグマに、手を翳した。
「リジェクション」
みんなの上空のマグマが消えるのを見て、そして、私の視界は赤で埋め尽くされた。
110305.