蜃気楼をつかまえろ | ナノ
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モビーディック号から地面の氷へと降りてきたオヤジの元へと走る。

胸に大きな穴を空けて血を流しているオヤジが私に気づいた。


「オヤジ…!」
「名前か」
「あの…バーソロミュー・くま…みたいなやつは私に任せて」
「ああ、無茶すんじゃねェぞ」
「…オヤジもだよ」


たっ、通り過ぎる。

白ひげ海賊団の傘下の海賊団が居る場所の向こう。
既に何度もパシフィスタからの攻撃が起きたのか、まるで火の海みたいな光景だった。

少し斬ったり刺したり、銃を撃っても、止めることの出来ないパシフィスタに、後退している海賊側が見えた。


「リジェクション!」


しゅうん、機械音と共に、一体のパシフィスタのビームが止まった。

荒い呼吸のまま、視界に入るだけのパシフィスタを捉える。

捉えていく毎に、一体、また一体と、パシフィスタの攻撃が止まっていく。

驚きに口を開けている、近くの海賊の人を見た。


「この…バーソロミュー・くま…みたいなの、外側から攻撃してもあんまり効かないです」
「あ、アンタ…」
「中に…銃を撃ち込むとかの方が効きます。私が止めてる間に…はや、く…っ」


ビキ…!と腕に走る割れるような痛みに、息をのんで歯を噛み合わせる。

すると次の瞬間、私の前に影が出来た。


「まぁたお前か。――名字名前!」



「足空独行!!!」



この人…確かシャボンディ諸島に居た…そうだ、あの時もパシフィスタが…―。


大柄な体からは想像出来ないような速さで私の前に現れた男が、その太い腕を私に向かって伸ばすのが見えて、そして、



キィン!!!

「おい!何が何でもその子を守れ!」
「嬢ちゃん…あのモリガンだろ?!へへっ、初めて見たぜ」
「良いかお前ら、その子がおれらの希望だ!」
「残りの奴等は、今の内にアイツをやっつけろ!」


4、5人の海賊の人達が、剣や銃、槍で、私へと伸びてきていた手を弾いた。
それに男は舌を打って、鉞を構える。


「絶対におれらの傍を離れんなよ!嬢ちゃん!」
「わ、」
「へへっ、きっと守ってやるからな、安心しろ!」

ふにゃ、
「……ありがとう」


少し笑って、そして直ぐにパシフィスタに向き直り手を翳す。

拒絶によって、停止しているパシフィスタ。
その開いた口に銃弾や砲弾を撃ち込む海賊。


「よっしゃあ、撃沈!」
「くたばりやがれ!」

「――ぐあっ…!」


次々に数が減っていくパシフィスタ。
けれどその事態を鉞の男が許す訳も無く、何人もの海賊が薙ぎ倒された。


「チッ、こいつ一体作るのにどれだけの費用がかかったと思ってんだよ!」


男の目が私を捕らえる。
海賊の人達が私の前に立ちはだかる。


「……?」


地面が…揺れてる…?
けどこの揺れは…オヤジじゃない…。
じゃあ…何が…――。


微かに感じた小さな揺れ。
けれど他の人達は気づいていないらしく、変わらず応戦している。

拒絶は止めないまま、周りを見渡す。



――海兵が広場に居ない。



やっぱり…おかしい。
広場に入ってる白ひげ海賊団も何人か居るけど…それでもまだ結構な人数が湾内に居る…オヤジも湾内に居るし……。


「……!あの、あとお願いします」
「えっ?!あ、おい?!」


きっと、そうだ。
海軍は、海賊側…白ひげ海賊団を囲むつもりだ…!
手段は分かんないけど…囲んで攻撃を仕掛ける。


「おい待て!PX-3!名字名前を湾内に入れるな!」
「必ず捕まえろ!早く広場に連れてくんだ!」


やっぱり…。
海軍は私を捕まえたくて、死なせたくない。
死んだら意味が無いから。
だから海兵達が私を広場へ連れてこうとする理由、湾内へと入らせないようにする理由は――



ガシャンガシャン!!!



直ぐ下から機械音が聞こえて、急いでその場を踏み切った、次の瞬間。
氷を割って壁が出てきた。

振り返ると、私へと手を伸ばしていたパシフィスタが見えた。

けれどその腕は勢い良く上がってくる壁に取られて、そして宙を待って私の隣に落ちてきた。

私はそれには目をくれず、反対側に見えるみんなを見た。


――どうせ何処に居たって私はみんなを助けるんだ。
それは、絶対に。


赤犬が手を空に向かって上げるのが見える。



「私もみんなと一緒に広場を目指すよ。遠すぎたら作用出来ないんだ」



なら…なら、近くに居る方が作用しやすいから、これで良いんだ。
それは、きっと。




110305.