「リジェクション」
ふっ、見えない何かで縛られていた体が自由を取り戻す。
瞳は真っ直ぐに男を見据えながら、ふらふら、手足を軽く動かして確認する。
……ほんと、変な人、だ。
私が拒絶をかけて、だけどまた技をかけてはこない。
興味…って言われても、何がしたいんだろ…。
サングラスの奥の瞳は見えなくて、にいっとつり上げられた口から発せられる笑い声が喧騒の中を縫って来る。
キュイイイイン…!!!
すると記憶の中の一部分と重なる音が聞こえて、場所を見やる。
「あ…また、バーソロミュー・くま…」
ドォン!と大きな音が響いて、次いでじじ、と地面が揺れる。
起こる砂煙も、この戦場の中だと当たり前に感じる。
「まったく!ヴァナタ、何すんのよ?!そりゃ立場ってものがあるかもしれないけど…!」
すると煙が晴れてきて、次第に見え始めた人影に、思わず私は少し驚いた。
「顔、デカい…」
紫色の髪の毛。
紫色の唇、アイライン。
紫色の服、ブーツ。
そしてその体は大きくて、特に顔がデカい。
私より大きいけど、三等身くらいだ。
…あれ…?
そういえば、さっきルフィが落ちてきた時に、あの人も一緒に落ちてきてた…かな…?
全員が全員、ルフィに協力的な人達なのかは分からないけど…敵じゃない、なら、少し…手伝おう。
進む方向に居るし、ね。
たっ、足を踏み出すと、足の裏の前の方に堅い地面の感触が伝わって鈍い痛み。
手を翳しているバーソロミュー・くまを見て、少し強く地面を蹴り、紫色のその人の前に飛び出した。
「?!ヴァ、ヴァナタ!危ないわよ!」
「ん、大丈夫だよ。――リジェクション」
「!!!」
しゅん、しぼむように消えた衝撃波。
地面に足をつく。
鈍い痛み。
バーソロミュー・くまを見上げるけれど、あの時と同じ、
「――技はかけるな。これはお前達にとって最善の策。……悪いな」
機械のような四角い目の部分を見ても、何も分からない。
……まあ、目だけで他の人の考えてることが全部分かるなんて、…無いのかあるのか、まあよく分かんないや。
「ヴァナタ!!!」
すると大きな声と共に肩をガシッと掴まれた。
そしてぐるんっ、そのまま体を振り向かされる。
「……おお、」
視界いっぱいに映る大きくて『少し』個性的な顔に、何て言うか思わず、声が漏れた。
「ヴァナタ、あのモリガンね?!そうでしょ?!」
「ぅあ、お、あの、」
「まさかこんな場所で会えるなんて…!ヴァターシを助けたってことは…まさかヴァナタ、白ひげ海賊団に居るの?!」
「ぅえ、ま、ちょ、」
「ちょっとくま!話してる最中に攻撃して来んな!」
「…………」
「ヴァナータも黙ってないで答えて!」
……がくがく揺さぶられてるから、喋れないよ。
その趣旨を舌を噛みそうになりながら伝えると、あらごめん、なんてあっさり離される。
ちらり、処刑台を見る。
鎖につながれたエース。
その横に二人、処刑執行人であろう男が立っていた。
さっきまでは、居なかったのに。
「私は…多分あなたが思ってるモリガン、だよ。あと白ひげの仲間じゃなくて、私が連れてきてもらったんだ。…もう行くね」
たっ、走り出すと後ろで「あ、待っ…て、くまぁああ!邪魔すんじゃないわよぉお!」と聞こえた。
……なんだか、さっきから変な人…多いな。
「――イワちゃん!」
「麦わらボーイ!ねえちょっと聞いて!今ね、」
「げ!くまみてェな奴!」
「ああ、なんかコイツおかしいのよ!ってそうじゃなくて、」
「ふっふっふ、――革命軍幹部、エンポリオ・イワンコフ。バーソロミュー・くまならもう…死んだぜ」
「?!(ああ、ていうかもう!話すタイミングが…ってまあ麦わらボーイならモリガンのことも知らなそうね)」
110302.