赤犬のマグマを消し去った私は再び広場を目指して走っている。
すると足の下の氷がドスン、ドスンと一定に揺れ始めた。
「へへ、来たぞ!」
「おお!待ってたぜ」
周りの白ひげ海賊団のみんなが口元を上げながら言い後方の上空を見上げる。
そこには――
「エースぐん、助げる」
巨人族よりも大きく、藁の笠を被ったその体は、湾内を駆け抜ける私達に影を落とす。
「リトルオーズJr.!!!」
うわ、すご…。
巨人族よりも全然大きい。
白ひげ海賊団側…なんだ。
ドスン、ドスン、!
リトルオーズJr.が歩みを進める度に氷が軋み破片が飛び散る。
「う゛ぉおオ゛お!!!」
巨人の海兵を軽々と投げ飛ばすリトルオーズJr.は広場へと通じる門壁を崩す。
それに乗じて広場へと向かっていると、広場の前列、並ぶ王下七武海の一人、バーソロミュー・くまが手を上げるのが見えて私はスピードを速める。
あれは…パシフィスタじゃなくて、本物のバーソロミュー・くまだ。
あの時と同じ悪魔の実の能力を感じる。
……けど、何でだろ。
…何か、違う…?
何故か感じる違和感。
けれどそのままに走り抜けて壊れた壁を足場にして、リトルオーズJr.の前に飛び出す。
「ウルスス・ショック」
その小さく、そして淡く光る丸い塊に、手を翳した。
「リジェクション」
ぐ、ぐぐ…!
と、今にも破裂しそうな形状で蠢く衝撃波の塊。
加えて私の腕がブルブルと震える。
びき…!と割れるような痛みが腕にかかる。
っ、防ぎ、きれない…!
ぶわん…と広がる衝撃波が見えた次の瞬間、私の体は吹っ飛んだ。
軽々と飛ばされ氷に叩きつけられて一瞬息が止まる。
強風に流される体は、白ひげ海賊団の人に支えられてやっと止まった。
「大丈夫か、名前!」
「だ、い…じょう、ぶ…」
「あんまり無茶すんな!」
起き上がらせてもらって、頷きながらお礼を言う。
けど再び前方で爆発音。
リトルオーズJr.が大砲の標的となっていた。
「エ゛ース…ぐん…」
ドシィイイイイン…――
「オーズゥウウウ!!!」
血塗れになり、リトルオーズJr.は倒れた。
その大きな体の上半分は広場へと入っていて、オヤジは彼を少し見た後、声を上げた。
「野郎共ォオ…オーズの屍を、越えてゆけぇえ!!」
「「「オー!!!」」」
刀を掲げ、リトルオーズJr.を踏み越え広場へと入っていく白ひげ海賊団。
私を支えてくれていた人達に、大丈夫だと伝えて、先へと急いでもらう。
「っ…!」
何とか立ちながら左腕を右手で抑える。
ガクガクと震える腕。
引き裂くような痛み。
駄目だ…休んでる暇は、立ち止まっている暇は無い…!
少し近くになったエースが居る処刑台を見上げる。
変わらず悲痛に染まったその顔を見て、私は再び広場を目指して走り出した。
「――や、やめろ!」
広場へと入って少しした所で、アトモスの声が聞こえた。
「た、隊長…?!」
「止めろ、近付くな!」
「な、何を…隊長!」
思わず足を止めて場所を見ると、部下へ剣を向けるアトモスの姿。
その横には…うわ、まっピンク。
その横には、ドが付く程に派手な服を着た男。
あ…あの人、さっき七武海の場所に居たから…七武海なのかな。
凄いピンクだから覚えてたんだよね。
……ていうか…
「ふっふっふ」
――あの人、能力者…?
アトモスは多分、あの人に操られている。
操られて、自分の部下に剣を向けさせられている。
…まあ良いや、とにかく早く止めなきゃ…!
「リジェクション!」
男に向けて手を翳した。
ぴたりと止まったアトモスは、次いで糸が切れたように体を戻した。
「悪ィ、名前…!」
「大丈夫だよ。行って」
「ああ!」
分が悪いと判断したアトモスは部下のみんなと一緒に広場の先へと進んでいく。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
そして私は――困った。
七武海の男は笑みを消し、私を凝視してくるのだ。
怒っているんじゃなくて、心から驚いている風で。
…私のこと、知らないのかな。
だからこんなに驚いてるのかな。
…行って良いかな。
良いよね。
先に進まなきゃ、と足を進めて、そして止まった。
自分の意思じゃなくて、――止められた。
「ふっふっふ、まあ待て」
七武海の、その男に。
110220.