「名前、」
「あ…イゾウ」
「ねえ名前、着物って知ってるかい?」
「…キモノ…?」
「ああ。倭の国という所で着られている服で、おれが着ているような物だよ。まあおれの着方は少し違うんだけどね」
聞いたことのない単語に首を傾げると、イゾウは自分の服を指で差す。
イゾウが着ている服は確かに他のみんなと少し違う。
上から下まである長さで柄や刺繍が施された布を羽織り、腰の所で留めてある。
違うと言えば、ハルタの服も少し変わってる。
何処かの国で王子様があんなのを着ていたけど…ハルタって王子様なのかな。
それとも将来の夢が王子様とか…?
いやいや、そしたらなんで海賊に、ってなるか。
「それでね、名前」
「…?」
「キモノ、着てみようか」
「……え…?」
「名前、着れた?」
「…ん、大体は」
「じゃあ出てきなさい」
「………ん、」
…なんで、こんなことに。
看護室の隅、衝立で仕切られた中でキモノを着ながら顔をひきつらせた。
「………」
頬を掻きながら衝立をズラして出ていくと、何故だか震えているナースさん達。
――にっこりと笑顔のままイゾウにこの看護室にぽいっと放り込まれたのはついさっき。
前にはキモノやら小物やら色々を持っているナースさん達が居て、まあ何だか結局、私はキモノを着ることになった。
淡い色の布地に柔らかい水色が引かれているキモノ。
散り散りに桃色の花びらも描かれている。
この花は知ってる…多分、サクラ…かな?
チョッパーが教えてくれたこの花は、チョッパーの蹄の形と同じなんだ。
「お、帯がズレてるわ!」
「あ…ありがとうアンナ」
「っ!」
「ぐえ」
キ、キモノってこんなに帯締めるものなのか…。
イゾウはすごいなー。
ギュッと締められた帯。
圧迫される内臓。
気持ち悪くなりそうだ。
「名前、此処座って」
するとララに声を掛けられ手を引かれて、私は丸椅子に腰を下ろす。
次いでナースさん達が私を囲むようにして、髪やら顔やら爪やらに何か施していく。
…ナミとロビンもよく私の髪の毛で色々してたけど、ナースさん達も負けず劣らずのテクニックだ。
…私が無頓着なのかな。
「さ、良いわよ」
エレナの言葉に、閉じていた瞼をそうっと上げる。
鮮明になった視界には頬を赤く染めるナースさん達。
耳にはナースさん達のきゃあきゃあという声が入ってきた。
「ギャップ…これが所謂ギャップ萌え…?!」
「可愛いから綺麗へのギャップ…!」
「ああ、たまんない…!」
……えっと。
どうしたら良いんだろう。
ていうかナースさん達ってこんなキャラだったっけ。
あ…ギャップ、かな?
「――終わったかい?」
するとドアの向こうからイゾウの声がした。
そしてそれにナースさん達は舌打ちを…え、舌打ち…?
一瞬間固まってからナースさん達を見上げれば、綺麗な顔が恐ろしいことになっていた。
言葉じゃとても言い表せない…うん、無理だ。
そんなナースさん達に手を引かれ、ドアへと向かう。
バン!と乱雑に開けたドアの前に――
「へえ、こりゃ予想以上だよい」
「…女は化けるな」
「おやおや名前、随分変わったな!」
「…年上に見えるぜ。ん?つうか名前って何歳だ?」
「綺麗だよ名前。やっぱりその着物で合ってたね」
隊長たちがズラリと。
そしてそんな隊長たちの後ろに船員たちがズラリと。
…つまりオヤジ以外の白ひげ海賊団全員だ。
「マルコ隊長!この姿オヤジに見せましょうよ!」
「ああ、いい考えだよい」
「なら名前、これを履いて。下駄と言ってね、歩きにくい型だから気をつけて」
イゾウが私の前に置いてくれたそれは、底が少し丸まった形をしていて尚且つ厚い。
深く輝くそれに、足の指を通す。
一歩踏み出して――
「わ、」
べしゃ!
「「「………」」」
地面に伏せた。
それはもう盛大に。
「………」
無言で立ち上がる。
立ち上がる際によろける。
何とか持ち直す。
持ち直す流れでよろける。
「…ぐ、この…」
喧嘩を売ってる。
この…ゲタ?私に喧嘩を売っている。
唇を引き結び、船員さん達が開けてくれる道を歩いていく。
向かうはオヤジの部屋だ。
「――悪いねい、名前。この船の奴等はサディストばかりでよい。誰も助けねえや」
「嫌だわマルコ隊長。私達はそんなんじゃなくて…ただあの困りながらも頑張る名前が可愛くて…!」
「つうかオヤジがあのヨロヨロの名前見たら笑うよな。グラララって」
「ああ、笑うね。……あ」
(グラララ!なんだ名前、その弱い体は!)
(わ、)
べしゃ!
(((………)))
110201.