オヤジが眉を寄せ目を細めて、私をジッと見定めてくる。
私はその瞳を見上げる。
誰も何も言葉を発しないこの空間で、船にあたる波の音が聞こえた。
「―――良いぜ、名前」
――ほうっ、と。
ナース達や隊長達が息をつく音が部屋中からした。
にっと口元を上げるオヤジは言葉を続ける。
「お前が海軍に殺されねえってことだけ言ったなら、おれは了承なんてしなかった。ただお前は仲間の元へ帰る…そう言ったなァ?」
こくり。
頷くと、オヤジは目を細めて笑った。
「その気持ちがあるなら大丈夫だ。――お前の仲間の家族はお前の仲間、家族だ。…一緒に助けに行ってもらうぜ?名前」
「…!…ん、…」
頬を緩める。
そんな私を見てオヤジがグラララと笑う。
起こった空気の振動にぐらついた体を、誰かが支えてくれた。
「ったく、お前には驚かされたよい」
「マルコ」
「…無理は、するなよ」
「ジョズ」
「ひやひやしたぜ!名前が戦争に行くとか危ねえな」
「ハルタ」
「確かにそれは心配だけどオヤジが決めたことだからね。無茶はしないって約束だよ、名前」
「イゾウ」
両側に並んでいた隊長達が傍に来て、頭を撫でたりしながら色々言ってくれる。
マルコが支えてくれているけど、みんなもぐしゃぐしゃと頭を撫でるから横に斜めに体が覚束ない。
「ちょっと、名前は怪我してんのよ!あんまり乱暴にしないで!」
「…エレナ」
「!か、勘違いしないでよね。別に名前の体を心配して言ってるわけじゃないわ!」
「おや、すごいね名前。ナース達を落としたのか?」
「…?」
イゾウに微笑まれながら頭を柔らかく撫でられる。
「イゾウ…!あなた、今すぐその手を離しなさい!」
「なんでだいララ。乱暴にしてないだろう?」
「っ、ムカつく…!」
あれ…イゾウの笑顔が一瞬怖かったけど…気のせいかな…。
―――バタン!!!
すると後ろで勢い良くドアが開く音がして、振り返れば船員たちが雪崩れ込んでいた。
「ば、ばか野郎!テメェらが押すから…!」
「ああ?!来んなっつったのに来たのはお前らだぞ!」
「だから誰か一人くらい飯食いに行けっつったんだよ!」
「そんなこと出来ねえよ、心配するだろ!」
ぐちゃぐちゃと動きながら言い争うみんな。
隊長達も、ナース達も、オヤジも、一瞬間ポカンとしてから直ぐに笑い出した。
私も笑って、オヤジを見上げる。
―――ふにゃり、
「ありがと、…オヤジ」
大きな手が伸びてきて、私の頭を優しく撫でた。
110131.