木の小屋みたいなアジトを進んでいくと、静かで人気が無かった中から物音がした。
少し立ち止まり、そして中に入った。
「―…誰だおめェは」
「…麦わら海賊団の名前、です。はじめまして。勝手に入ってごめんなさい…あの、海に落ちちゃって…何か乾かすものありませんか?」
…ていうかこの人でかっ。
藁の暖簾を潜ればそこには椅子に座っている金髪黒目の男の人。
椅子なのに私より顔が高い位置にあるって何事だ。
するとその人が何故か震え出した。
「は…じめ……」
「…はじめ…?」
「はじ…まし…っ…」
「………」
……大丈夫かな。
私が寒さで震えてるからつられたのかと思ったけど、違うみたいだし…。
「おめェ…麦わらの一味なんだらべっちゃ…?」
「あ…うん」
「なのに、なの゛に…はじめまして…?」
…あ、もしかしてこの人もケイミーの友達と同じように、麦わら海賊団と知り合いなのかな。
私最近入ったばかりだから…ごめんなさい。
「(麦わらの一味なら…あの賞金首の写真を見てねェわけは無ェずらべっちゃ!それなのに…それなのにはじめまして…!この子は、オラをちゃんと見てくれてる…!写真なんかに惑わされねェで、オラを、心を見てくれてるんだらべっちゃ!)…そのままじゃ風邪引くからコレ着替えるちゃ」
ふにゃり、
「…ありがとう」
「たた大したことじゃねえずらべっちゃ!」
差し出された黒いワイシャツとズボンとタオルに素直に喜んだ私は、『はじめまして』の意味が深く深く捉えられてることになんて気付かなかった。
「……でかい」
うん…そうだよね、私も自分で気付くべきだった。
あの人が私より大分大きいことは分かってたのに…。
洗面所に案内され、まず黒いワイシャツに袖を通した私は引っ張っても引っ張っても中々出てこない自分の腕に遠い目をしそうになった。
冷えた体に暖かく感じるワイシャツは、ちゃんと第一ボタンも止めなきゃいけない。
ひとつひとつのボタンの間隔が普段着ている服とは桁違いなんだ。
「……お化けみたい」
冗談みたいだけど、私の指先がワイシャツの肘の辺りだ。
裾だって膝上5センチか10センチか、大体そこらへんでズボンは要らない。
ていうか履けない。
…べろべろばーとか言ったらチョッパー驚いてくれるかな。
―――ズガァアン!!!
すると打音と共に小屋がぐらぐらと揺れた。
右手に借りたズボン、左手に水を絞った私の服を持って私は洗面所を出る。
「な?!お、お前…?!」
「……見たな…(やっぱり麦わら一味なら気付くらべっちゃ!あの子は特別だらべっちゃ!)」
そこには驚いた表情のルフィと、ぴりぴりとした雰囲気を漂わせながら鉄仮面をつけるさっきの男の人。
「!名前…?!」
するとルフィが私に気付いた。
目を見開いたかと思えば直ぐにグッと眉を寄せて不機嫌そうにして私に手を伸ばした。
「わ、」
両手に服を掴んでいたから文字通りルフィの腕の中へと突っ込んだ。
硬い胸元に鼻が当たってじんじんと痛む。
見上げると同時に、右手に掴んでいた借りたズボンを強引に取られた。
そしてルフィはそのズボンをぽいっと投げ捨てる。
「あ…ルフィ、あれ貸してくれたのに…」
「〜名前!」
「…?」
我慢ならないといった風に怒るように名前を呼ばれて首を傾げる。
…私なんか悪いことしたかな。
すると私とルフィにフッと影がかかった。
「麦わら〜!!!」
鉄仮面でびりびりと振動した低い叫びが空気をも震わした。
101225.