蜃気楼をつかまえろ | ナノ
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「#年下攻め」のBL小説を読む
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「ずびばぜんでじだ」
「………」


顔中ボコボコになって私に謝る食い逃げ男にゆっくり首を振った。


集団リンチだ。
船長なのに集団リンチにされてるよ、この人。
……船長だよね…?


風に靡く旗にはドクロマークに麦わら帽子。
食い逃げ男も麦わら帽子。


うん、多分、船長。
……ていうか、


「あの…ここ何処ですか」


そう言った瞬間、誰も目を合わせてくれなくなった。
ぐるんと海の方を見ていたり視線を泳がせたり。
――結局、私の視線は船長さんに戻る。


「怒り狂ったおっちゃんのせ」
「まだ蹴られ足りねえのか?」
「ずびばぜん」


金髪の男が片足上げて船長さんを睨む。


…多分、船長。


するとオレンジの髪の女が床に座っていた私に合わせてしゃがんだ。


「今から言うこと、落ち着いて聞いてね」
「……(こくり)」
「――…私達、海賊なの」
「………」
「あんたが居た島から離れたのは海軍の船が見えたから」
「…あの」
「今すぐは無理だけど、数日経ったら必ず島に送るから。だからそれまで」
「……あの」
「ん、なに?」

「私、あの島の人じゃないです」


ぴたり。
今日何回目かの停止。
気にせず言葉を続ける。


「あの島にはただ辿り着いただけで何の用も無いし、もう出ようと思ってたんです。だから大丈夫です」
「大丈夫って…」
「それにあと数日でここ一帯に強い雨が降ります。海軍が居なくなるのを待ってたら出発する時には波は荒れてると思います」
「そうなのか?ナミさん」
「…ええ。確かに雲と湿気の感じからすれば数日後は嵐ね」


…航海士…?
雲とか湿気だけで分かるんだ…凄い。
ちなみに私は新聞で読んだだけだ、わーい。


キョトンとした顔で私を見ていた船長さんを見返す。


「あの、もし良かったら小舟とか…無いですか?」
「小舟?」
「(こくり)」


元々私も今日か明日にはあの島を出るから小舟を島で買う予定だった。
嵐もそうだけど、海軍が彷徨く島に長居はしない。


「あなた、何処か行きたい島があるの?」
「特に…適当にぶらぶらしてます」
「適当にって…あんたまさかこの海を小舟で渡るつもり?!無理よ、絶対!」
「つうかなんでそんなことしてんだ?俺らが海賊だってのにも驚いてねえし」


緑色の髪の男に言われる。
金髪の男に「お前は目付きがわりーんだよ、怖がるだろうが!」と蹴られている。

私は瞬きして、緩く口元を上げた。


「だって、色んな島や海や空を見るのは楽しいから」


笑う私に皆ポカンとした表情。
私は続けて、上を指した。


「あと、海賊っていうのは見たら分かります」


風に靡く立派なマーク。
海賊を意味する、ドクロ。


するとガシッと肩を掴まれて、見ればいつの間にか顔の腫れが引いていた船長さんが私の肩に手を置いた。


「よし!お前は今からおれの仲間だ!」


間。


「……へ…?」
「俺も分かるぞ!色んな島とか海とか空とか見んのが好きな気持ち。だから仲間だ!」
「だからの使い方おかしいですよ、ヨホホホホ!」
「笑ってる場合じゃないっつうの!ルフィあんた何言ってんのよ!」
「仲間だ!」
「話を聞けえ!」


ぼか!と殴られた船長さんをじっと見る。


…変な人…。
…何も知らないのに仲間だって言われたの初めてだ。
私のことを知っている人達からなら、何回もあるけど。


「私戦えないんで止めといた方がいいと思います」
「嫌だ!」
「だぁー止めろよルフィ!それよりコイツをどうするかを」
「仲間にする!」
「俺の話聞いてた?!」
「ほ、本当に行きたい島とか無いのか?何処でもいいのか?あ、これ氷だ。これで冷やすといいぞ」
「小舟ならあるっちゃあるけどよォ…」
「馬鹿フランキー!こんな子を小舟で海に放り出す気?!」
「あるって言っただけだろうがァ!そんなことさせねーよ!」


ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃー
再び始まった騒ぎ。
金髪の男と緑髪の男はいつの間にか取っ組み合いをしていて、冷静に見てるのは黒髪の女だけ。
するとその女がスッと手を前で組んだ。


「ドスフルール」


そう紡いだ瞬間、騒いでいた人達に手が絡まり動きを止めた。
皆顔をひきつらせながらこの人を見ている。
それに対して女は綺麗に微笑んだ。


「私達が向かう先にある島に届けるのはどうかしら」
「向かう先?」
「ええ、その途中にある島でもいいと思うわ。ルフィのお詫びも含めてね」
「仲間に…!」
「クラッチ」
びよーん


船長さんの首に回った手がぐきりと首を反らせる。
けどそこはゴムゴム、びよーんと伸びただけだった。
大人しくなった皆にするすると手が消えて花びらが舞う。

それを眺めていると、オレンジ色の髪の女が前に来た。


「じゃあそうしましょ!私はナミ、この船の航海士よ。敬語は要らないわ」
「私はニコ・ロビン、よろしくね」
「俺はサンジ、コックだ。よろしくレディ」
「ゾロだ、」
「へへっウソップ様たぁ俺のことよ!」
「チョッパーだ、船医だ、…トナカイだ!」
「フランキーだ、よろしくな」
「ブルックです!ヨホホホホ」

「――おれはルフィ、海賊王になる男だ!お前は俺の仲間に」
「クラッチ」


海賊王…。


私は皆を真っ直ぐに見た。


「名字名前…よろしくね」






(変わった人、達)
101111.