蜃気楼をつかまえろ | ナノ
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「#寸止め」のBL小説を読む
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「名前ー泣くなよー」
「…おー…」
「〜っ、泣くなって!」


サウザンドサニー号の医務室で私はルフィに肩を掴まれ見つめられ、足元ではチョッパーが包帯を巻いてくれている。
他の皆は舵をとりにいったり、お粥を作りにいったり、その他諸々で此処には居ない。

ぼろりぼろりと流れる涙がなんだかあまり止まらなくてそのままなんだけど、ルフィが歯痒そうな表情で焦っている。


「擦ったら止まんのか?!」
「だ、駄目だぞルフィ!擦ったら腫れるんだ!それに良いじゃんか、名前が素直に泣いてると、本当にホントの仲間になったんだって思えるぞ!」
「それは分かんだけど…なんつーか名前が泣いてんのは見たくねェんだよなー。…あ、」
「…?」
がしり、
「にししっ」
「……ん…?」


ルフィは何かを思い付いたように笑うと、私の頬を両手で挟むと



―――べろり、



流れる涙を舐め取った。


「………」
「しょっぺェなー」
「………」


びっくりしてぱちくりとルフィを見つめる。
ベッドに腰掛ける私の横に右膝をつきながら涙を舐めとるルフィの斜め下に目と口をガーン!と開いているチョッパー。



―――がちゃ、
「名前ー調子はど……」
「名前、お粥作ってきたってナミさん!固まってどう…し……」
「おいサンジ、ナミ。こんな場所で止まんなっ……」
「どうしたんですか?ウソップさん。……おやまあ」
「なんだてめェら。こんなとこ突っ立っ……スーパーじゃねェか…」
「あら、どうしたのあなた達?……ふふっ」
「なんだお前ら?…なっ!おいルフィ!ソイツは食いもんじゃねェぞ!」


ナミ、サンジ、ウソップ、ブルック、フランキー、ロビン、ゾロが部屋に入ってきてその場で止まった。
ていうかウソップまでの三人はは皆固まってる。
チョッパーと同じような顔で。


…ていうかもしかしてゾロの言う通り食べ物だと思われてるのかな。
はっ…まさか味見…?!


「ちょっとアンタこっち来なさい!」
「うおッ!何だよナミー」
「チョッパー、お粥頼む!…このクソゴム!」
ばたん。


先頭に居たナミとサンジがルフィを引っ張り医務室を出ていき二人に押されて他の皆も入らずにドアは閉じられた。


「……私…食べ物じゃないよ」
「お、おう!ルフィも分かってると思うぞ!」


















「ちょっとルフィ!」
「ん?なんだ?」
「お前、名前は食いもんじゃねェぞ」
「はぁ?分かってるぞそんなの。何言ってんだゾロ」
「そうじゃないでしょ!」


ゴチン!
ナミの拳骨によって、頭から煙を出しながら地に沈むルフィとゾロ。


「おめェら何そんな騒いでんだ?」
「いや思いっきりオメーのせいだろうが!」
「ん?おれか?」


びしりとウソップにつっこまれ疑問符を浮かべるルフィに、フランキーがサングラスを外しばちりとウインクをした。


「おめェもスーパーじゃねェか!やるな、麦わら!」
「何がだ?」
「またまた!惚けちゃって、野暮ですねー!」
「だから何だよ?わけ分かんねェぞ」
「お前が名前の頬を舐めてた事だよ!クソゴム!お前は順序がおかしいぜ」


煙草の煙を吐きながら苛立たしげに言うサンジは、ルフィの名前に対する恋心に気付き、面白がるが反対はしない。
が、想いのベクトルが向き合う前の数段飛び越えた行為には反対らしい。
ルフィと、そして名前の二人であるから特に。

サンジの言葉に、ルフィはああ、と手を叩いた。


「だってよ、名前が泣き止まねーから」
「それで何で頬を…もしかして、」
「んー名前が泣いてんの見てたらよ、なんか涙が勿体無く見えてな?で、舐めた」
「で、舐めた…じゃねェわっ!どんな止め方しとんじゃお前はーっ!」
「ん?駄目だったか?」
「ふふっ、まあ…愛する人の骨の髄までも、と言われるものね」

「「「え」」」

「なっ、ロビン!あなた気付いてたの?!」
「あら、皆気付いていなかったの?」
「鋭いロビンちゃんも素敵だーっ!」


ぽかんと口を開けたウソップ、フランキー、ブルック。
だが直ぐに顔を輝かせたり、にやりと口元を上げたり、ヨホホホと笑い出した。


「ま、まじかよォ?!ルフィが、恋?!」
「麦わらにもそんなのが有るとはなァ!」
「私までドキドキしちゃいますよー!あ、私心臓無いんですけど」


するとそれまで腕を組み訳が分からないといった顔をしていたゾロがルフィを見た。


「なんだ。お前名前の事が好きなのか?」
「あーでもルフィは気付いてないのよ。仲間に対する好きと違」

「おう!好きだ!」

「「はあ?!」」


前とはうって変わって断言したルフィに、今度はナミとサンジが驚き、ウソップ、フランキー、ブルック、ゾロ、ロビンが笑みを深める。


「あ、アンタこの前はよく分からないって…」
「おう、分かんなかった。けどさっき、名前がアイツらに傷つけられてるのを見たら…分かったんだ。そりゃお前らが傷つけられたっておれは怒るぞ!ムカついて、ブッ飛ばしてェって思う。けどさっきは、名前に触んなとも思ったんだ」


にしし、と得意気に笑うルフィは続ける。


「名前が笑うとおれも…なんつーかこう、幸せなんだ!あ、勿論お前らも笑ってなきゃ嫌だぞ!ま、でも名前の涙を舐めたのは…んー、なんだ…」
「ハッキリ言えよ。欲情したんだろ」
「なんつーこと言ってんの!この馬鹿!」
「ああ!そういうことか?」
「アンタも納得すんのかい!」


再びナミの鉄拳に沈むルフィとゾロ。
するとがちゃりと医務室のドアが開いた。









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