蜃気楼をつかまえろ | ナノ
×
「#お仕置き」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

「ヒャハハ!!凄ェなこりゃ、今までの自分が虫ケラに思えるぜ!」


男の船へと走る最中、未だに爆発の黒煙が上がっている空を振り返りながら笑う男。


――…ブルック…。
きっと…逃げなかっただろうな…。
少ししか男の能力に作用しなかったけど…それでも酷い爆発だった。
……無事で、いてね…。


するといきなり曲がり角で海軍と鉢合わせになった。


「げえっ…!」
「!お前…懸賞金8500Berryのジル・ヴァストだな?!」
「それに…まさかお前!名字名前か?!」
「なっ!お前、海軍には顔が知られてんのかよ!」


私に気付いた海兵が電伝虫を取り出し操作し始めた。
もう一人は剣を構え、近付いてくる。


「おい!分かってんだろうな?!」


じろりとジル・ヴァストに睨まれて、小さく頷く。



―――数秒後、再び街に爆音が響き渡った。




















―――がちゃん、

鈍い金属音を立てて、私の左足に足枷が取り付けられた。
何とも思わずにそれをただ眺めていると、足元からジル・ヴァストがにやりと私を見上げて笑った。


「悪いがこうさせてもらうぜ。おっと、だからといって能力を使わないなんて事はすんなよ」
「…(こくり)」
「ハッ!本当イイ物が手に入ったぜ!」




「名前ーっ!!!」




「……ルフィ…!」
「なっ?!麦わら海賊団…もう来たのかよ、クソが!」


いや、その大半は自分の責任だよ、ジル・ヴァスト。
だから下手に騒がない方が良いって言ったのに…。


立ち上がって向こうを見ると、既に島を出航して私を追いかけてきているサウザンドサニー号と、甲板に見える麦わら海賊団。

ぎゅ、と手を握り締めた。


…思ってたより早い。
爆発が起こっても、それが麦わら海賊団に関係あるものだって思う事は絶対じゃないから大丈夫だと思ってたのに…。
…きっと、ブルックが皆に言ったんだろうな…。
…『自分から行った』ってちゃんと言ったかな…。
…あ…言っても言わなくても、皆なら追いかけてくるのか。
しまった、誤算だ。


「うおおおおおお!!!」


するとルフィが此方に向かって手を伸ばしてきた。
頭を抱えて焦り慌てるジル・ヴァスト。

私は静かに、手を向けた。



「リジェクション」



半分まで来ていたルフィの手は急に戻っていった。
驚いたように私を見るルフィ。
すると次いで船の手摺にふわりと花びらが舞って手が現れた。



「リジェクション」



私を掴もうとしたその手。
言葉を紡げば、静かに散った。
私は続けてジル・ヴァストを見上げる。


「麦わら海賊団の船の回りの海を爆発で揺らして」
「は?」
「向こうには優れた航海士が居るから…このままだったら追いつかれる。波の流れを掻き回して、離さなきゃ」
「言われてみれば確かに近付いてきてるな…分かった。力貸せ」
「……レリーフ」


瞬間、サニー号の回りの海が飛沫を上げた。
揺れるサニー号。
サニーの船首に立ち麦わら帽子を抑えて眉を寄せながら私を真っ直ぐに見てくるルフィ。


来ないでね…ルフィ。



―――ふわり、
「ばいばい」



そして私は背を向けてジル・ヴァストの方へと歩く。
ジル・ヴァストは高笑いをしながらサニー号の回りの波を爆発するのを続けていて、私に気づくと更に笑い声を響かせた。


「ヒャハハァ!良いぞ!良いぞォ!これなら逃げ切れる!それにお前が居るからアイツらは大砲も撃てやしねェ!」


心底可笑しそうに笑うジル・ヴァストを眺める。


―…ジル・ヴァストとも、何時まで持つかな…。
確かに私が居れば敵の能力者を止められる。
けど能力者の数が多かったり、その能力者が強かったりすると、止めるのにも体力が要る。
それに加えて私が居る側の能力者にもレリーフをかけっぱなしなんて、ずっとはもたない。



「うおおおおおお!!!」



すると空気が揺れて、振り返ればルフィが吠えていた。
ジル・ヴァストが嘲笑いながらルフィ目掛けて手を翳す。


「待っ…!」




どがああああん!!!




止める間もなく、ルフィは爆発に包まれた。



「…もし麦わら海賊団が追いかけてきても、一味にも船にも、手は出さないで」
「はァ?それでどうやって逃げんだよ!」
「策はある。…とにかく、逃げる事だけ考えて」
「チッ!分かったよ!大体麦わら海賊団に敵うかよ!」



キッとジル・ヴァストを見上げて睨む。
その目は麦わら海賊団を見下していて、欲望と高慢さが滲み出ていた。

――私の能力で作用した人は、皆こうなる。
強さに溺れて高慢になり、次々に欲が溢れだす。
ならなかったのは…――



「うおおおおおお!!!」



するとまたルフィが吠えた。
爆煙が晴れて姿を現したルフィは拳を構え、そしてぎらりと此方を見ている。


「なっ?!お、おい!もっと作用しろ!」


ジル・ヴァストが私に向かって叫ぶ。



「ふざけんなァああああああ!!!」



するとルフィがまた吠えて、それにジル・ヴァストは飛び上がり腰を抜かした。

私もびくりと肩が揺れる。

止まる爆発。
立ち直すサニー号。
船首に立つルフィの後ろ、甲板に皆が並んだ。


「名前!ブルックから聞いたぞ、おめェが自分からソイツに着いていったって!」
「………」
「でもブルックはそう思ってなんかねェし、おれ達だって思わねェ!何が理由で黙って出てったか知らねェけど…いくら名前が離れたいって言っても、おれ達はぜってェ、離してやんねェぞ!!!」
「…!」



どおおおおおん!!!



「?!名前!」
「っんだこりゃあ!」


微かに目を見開いた、次の瞬間、船体が大きく揺れた。

傾いた床に足枷が持ってかれて勢い良く私は壁に叩きつけられる。
麦わら海賊団の皆の私を呼ぶ声が聞こえる中、眉を寄せて海を見れば白い旗、白い軍服、此方に向ける黒い大砲。


「―…ジル・ヴァスト。名字名前を渡してもらおうか」
「海軍…!」






.