蜃気楼をつかまえろ | ナノ
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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -

ブルックのバイオリンの音を頼りに船首甲板へと向かう。

ブルックがよく演奏している曲が辺りに流れていて、波の音でさえもが曲に組み込まれているように調和されている。

階段を上っていくと、バイオリンを演奏しているブルックと、コーラを飲みながら座り気持ち良さそうにそれを聞くフランキーの姿が見えて、私はげ…と足を止めた。


コーラを飲んでるフランキーに近付くとロクな事が無いんだよなぁ…コーラ飲めって言われたり、コーラ飲めって言われたり…コーラ


「お、名前。何やってんだ?お前も此方来いよ」
「…フランキー」


気付かれたー。


わざわざ立ち上がってまで来てくれたフランキーに顔を若干ひきつらせつつ隣に座る。
ブルックに演奏は止めずに頭だけぺこりと下げられて笑みを浮かべると、目の前を何かが遮った。
コーラだ。


「飲むか?」
「………」


だから炭酸は舌がぴりぴりするから嫌……あー…まあでも、最後くらい飲んでみても、いいかぁ。


「ブルック」
「なんですか?名前さん」
「コ…コーラが飲めるくらい勇気が出る曲が聴きたい」
「!漸くコーラ飲む気になったかァ!」
「分かりましたよ名前さん!では、とっておきの曲…いきますよ!」


そうして始まったのは、本当にバイオリンかと疑うような鋭い音質に早いパッセージ。
今までかかっていた柔らかくて穏やかな曲とは正反対。


…なんだか波も荒々しくなったのは気のせいかな。


フランキーからよく冷えたコーラ瓶を渡されて深呼吸するみたいにふう、と息を吐く。
きゅ、と瓶を握り締めた。



――ぐるり



するといきなりお腹に手が回ってきた。
視線を辿ればその腕は伸びて伸びて、帆の上にある。


「ぐえっ」


もう慣れてしまった引っ張られる感覚に潰れた声が口から漏れる。
離してしまったコーラはフランキーが文字通り死ぬ気でキャッチしていた。


―…こんなことするの、いや、出来るの、世界中探したって一人だけだ。



「…ルフィ」
「にししっ!名前やっと見つけたぞ」



背中を振り返り見上げながら名前を呼べば、何時もみたいに笑うルフィ。


「…?やっと?」
「ああ。名前探しててゾロに聞いたら厨房行ったって聞いてよ、厨房行ったらサンジが居たんだけど話しかけても聞こえてねえんだ」
「え、まだ…?」
「そしたらナミが入ってきてチョッパーん所だって言われて行ったのに居ねえし、だから此処なら直ぐ見つかると思ってな!」
「おー。なんか用事?」
「いや、会いたかっただけだ」
「…?そっかぁ」


ルフィってやっぱり変わってるなー。


よいしょとルフィの腕から抜けて隣に座る。
結構細い帆の木に思わずぐらりとバランスが崩れた。
するとルフィにまた引き寄せられる。


「危ねえぞ!」
「…引っ張ってきた人がそれを言うか」
「だから掴まってろよ」
「私別に高いとこは苦手じゃないから大丈…」
「落ちたら危ねえぞ」
「……ゴムゴムで助けて」
「当たり前だ!…けどなんか危なっかしいんだよな〜」


我が儘な船長め。

んー、と不満げに私を見るルフィに私はあ、と思い付いて



―――ふわり



ルフィの左手に右手を重ねた。
目を丸くさせたルフィに笑う。


「これなら大丈夫だよ」
「おおおう!」


…なんか『お』多いよ?


ざあっと風が吹いた。
少し冷たい海風が髪を靡かせる。


「…ルフィー」
「ん?なんだ?」
「……なんでもなーい」
「なんだよ、気になるじゃねえか!」








(今まで、ありがとう)
101214.