「でだなァ、その時海から手が出てきて…!」
「ひいーっ!」
真暗闇の中、甲板の小さな簡易テーブルの上に固定された蝋燭の灯りで影が出来ている(鼻が長いから影が凄い)ウソップの顔。
ぴゃーっと寝ているゾロに隠れにいったチョッパー。
ルフィがおかしそうに笑った。
「にししっ、それロビンじゃねェの?」
「あら、私じゃないわよ?ふふっ」
「ヨホホーっ!怖いですねー!」
――私達は今、怖い話大会(?)の真っ最中だ。
不寝番をすると私が言ったら皆が一緒にやると言ってくれて、何が何やらこんな状態になっている。
でも皆が皆不寝番をしたら明日が大変だと言うことで、航海士であるナミ、コックであるサンジ、そして何かあった時の為に船大工のフランキーは寝ることになった。
ゾロは甲板に居ながら寝てるけど。
「次はブルックだな!」
チョッパーを怖がらせたことに満足そうなウソップがブルックに言う。
ブルックは指を組んで、静かに空を仰いだ。
「では私が蘇ってからの何年目かの話を…ある日私が何時も通り一日を過ごした夜の事です。その日はまた妙に物寂しくてですね…時節船へぶつかる波の音が静かに響いてました」
ごくり。
ゾロに隠れている(つもりでいるけど全然隠れていない)チョッパーが息をのむ。
「私は濃霧で包まれた辺りを見回していました。すると少し風が吹いて黒く鈍い色をした波が現れ…ああ、恐ろしいー!骸骨が此方を見てたんです!」
「「それお前だろ」」
「びゃあああーっ!!」
ルフィとウソップにつっこまれてヨホホホ!と笑うブルック。
私は怖がるチョッパーを見て、何時も通りに微笑むロビンの耳元に顔を寄せた。
「…ふふ、悪い子ね」
そう言いながらも少し楽しそうなロビンは静かに腕を交差させた。
「ドスフルール」
ひょいとチョッパーの背中に生えたロビンの手は、ガッと少し強めにチョッパーの肩を掴んだ。
「びゃあああーっ!!!」
びくりと体を揺らして、というか飛び跳ねたチョッパーはそうして気絶してしまった。
「あ…」
「ふふっ、やり過ぎたかしら?」
…私は強く掴めとは言ってないし、やっぱりロビンも楽しんでたな。
―――がちゃ、
するとドアが開く音がして振り返った。
けどそこには誰も居ない。
「………」
なんだかぞわりと寒気がして、左隣のルフィを引っ張った。
音がしたドアも左側だからこれで隠れられる。
「なんだ名前、怖ェのか?」
「……いや、何となく」
「にししっ!怖ェなら此方来い」
「お、」
ひょいと引っ張られてルフィの間に収まった。
後ろから強く抱き締められる。
正面にはさっきの『ドアが開く音がしたけど誰も居ない事件』に対して、顔を真っ青にして震えているウソップと、同じように震えながら蝋燭で影が凄いブルック。
ある意味こっちも怖い。
「あー…」
するとルフィが私の髪に顔をぐいぐいと埋めながらそう漏らした。
「……ルフィ」
「あー…」
「………」
なんだこれー。
更に強くなる力に若干内臓が潰されそうになっていた私は、その気持ち悪さと、ぎゅっと目を塞ぎながらながらぎゃーぎゃーと騒ぐウソップとブルックの声で、再び鳴ったドアの音に気付かなかった。
そしてゾロが居なかったことにも。
(…どうしたんだ、コイツら)
(あらお帰りなさい、幽霊さん)
(は?)
(あ、キューピッドでもあるわよ)
(…は?)
101223.