「なんだこれ!…なんだこれ!」
適当に男子部屋に逃げるように入ってきたルフィは、自分の心臓辺りの服を掴みぐるぐると落ち着き無く辺りを回る。
バン!
「「…ルフィー?」」
すると男子部屋のドアが勢い良く開けられた。
ルフィが振り返れば、そこにはにやりと不敵な笑みを浮かべたナミとサンジ。
「ナミ、サンジ…お、おれ…」
「ふふ、なあに?」
「どうした?クソゴム」
いやに優しく宥めるように近付いてくる二人に、ルフィはぐっと拳を握った。
「おれ、病気かもしんねえ!!」
「「………は?」」
「チョッパぁあああ!助けろー!」
「ちょ、ちょ、ちょーっと待ちなさい!」
「やっぱコイツ頭までゴムで出来てやがる…!」
「大丈夫かルフィいいい!」
チョッパーがバン!とドアを開けて入ってきた。
早いもので手には救急箱が提げられている。
「チョッパー!おれ、病気だ!絶対病気だ!」
「症状は?!」
「なんつーかこう…心臓が苦しくて、顔があちい!」
「いま調べるぞ!」
びゃーっと物凄い速さで医学書を捲るチョッパーの小さな肩に、ナミが手を置いた。
「いいのよチョッパー。分かってるから」
「ホントか?!」
「ナミとサンジは分かってんのか?じゃあ早く治してくれ!すっげー苦しいぞ、これ!」
「俺らには治せねーよ。チョッパーにも無理だ」
「そ、そんなに酷い病気なのか?」
心配そうに自分を見上げるチョッパーに、ナミはばちりとウインクする。
そしてそんなナミに「可憐だーっ!」と目をハートにしたサンジを無視して、ルフィを見た。
「ルフィ、なんでそうなったの?」
「分かんねーけど…名前が手を重ねてきたらこうなった!」
「ククっ」
「なに笑ってんだサンジぃ!」
「…ナミさん、もう言ってやろうぜ」
「…そうね。ルフィ、」
ごくり。
ルフィとチョッパーが唾を飲み込んだ。
サンジは愉快そうに煙草をふかす。
ナミは得意気に、そして嬉しそうに笑って口を開いた。
「ルフィは名前の事が好きなのよ」
理由が分かったのかチョッパーがあわあわと意味も無く焦り、でも嬉しそうに顔を緩める。
ルフィは目を見張って、そして、
「………おれ、ナミもサンジもチョッパーも好きだぞ?」
まるでコントのように三人はがくっとこけた。
サンジに至っては煙草を落としている。
「違うわよ!そういう好きじゃない!」
「好きって二種類あんのか?」
「…ルフィ、お前名前のこと好きか?」
「何言ってんだサンジ。勿論す、っ」
「…ルフィ?」
「す、す、〜っ」
――ふわり
「ルフィ…」
「やっぱ病気だ!」
ぐしゃぐしゃと髪を掻き回すルフィにナミとサンジはにやりと笑う。
チョッパーはふにゃふにゃと頬を緩ませている。
「な?違うだろ?」
「…違くねえ」
「じゃあなんで好きって言えないのよ?」
「それはっ!…心臓が苦しくなって、あー、なんつーか簡単に言えねえ!」
「特別な『好き』だからだぞ、ルフィ」
「…チョッパーまでわけ分かんねえ事言うなよ〜…」
(苦しい。…けど嬉しい)
101212.