忘れてた訳じゃない。
忘れる事なんて出来ない。
…けど、皆みたいな海賊は初めてで、島で一緒に買い物することも遊ぶことなんて無かったし、まず船で自由に行動出来るなんて事もあんまり無かった。
だから、油断してたんだ。
ほんの少し、薄れてた。
――私が、狙われてる身だってことを。
「ち、違う船が此方に向かってきてるぞォ!」
始まりは、ウソップのこの言葉だった。
「海賊か?!」
「おおおおう!明らかに俺ら目掛けて来てるし、大砲まで出してやがる!」
船首に居るウソップが前方を何時も頭に付けてるレンズで覗きながら叫んだ。
皆が各部屋から出てきて同じように見やる。
図書館に居た私はサーッと身体中の血液が冷たくなる感覚になった。
私を狙ってる海賊だ…きっと。
私は前方を見やる皆の後ろでぎゅっと服の裾を握り声を絞り出す。
「…わ…たし」
「名前?」
「!まさか…!」
気付いたらしいロビンに、静かに頷く。
「きっと、私を…狙ってる…」
どぉおおおん!!!
瞬間、船スレスレの位置に大砲が撃たれた。
音を立てて飛沫を上げる波に揺れる船体。
ぐらりと傾いた身体を、誰かに掴まれた。
「名前は部屋に隠れてろ!」
「…ルフィ」
「にししっ!心配すんなって!」
申し訳なさにぐっと眉を寄せて見上げれば、ぐしゃぐしゃと髪を掻き回された。
そしてポイッと女部屋に入れられる。
「名前はやんねーぞ!」
「当たり前よ!ボッコボコにしてやるわ」
「ハッ!あんな弱っちい大砲でサニーをやれると思ったら大間違いだぜ」
どくん どくん
心臓が苦しくなってきて、ぎゅうっと心臓ら辺の服を握り締める。
短く浅く呼吸する。
「心配すんなって!」
瞬間、大砲とは比べられない衝撃が船体に走った。
次いでバタバタと足音と大勢の声。
っ体当たりして、乗り込んできたんだ…。
……だい、じょぶ…。
敵のやられてる声しか…してないから、だい…
「きゃあっ?!」
「…!ナミ…?!」
ナミの悲鳴が聞こえて思わず窓から外を見る。
丸く小さい窓の枠の中に、男と、床から生えた蔓のような物で手足を捕らえられているナミが居た。
…あの男、能力者だ…!
「てめえ!ナミさんを離しやがれ!」
「ヨルムンガンド」
「なっ?!」
ナミを助けようとしたサンジの足元から同じような蔓が生えてきてサンジを捕らえた。
男はにやりと笑みを浮かべて二人を見やる。
「名字名前がこの船に居ると聞いたんだが…姿が見えないねェ」
「ハッ…知らねえよ、クソ野郎」
「…ブリッツ」
眉を寄せた男が呟くと、蔓に電撃が流れた。
「きゃああっ!」
「ぐぅ…っ!」
「口のききかたには気をつけな」
「サンジ!ナミ!」
「おっと…、ヨルムンガンド」
次々に皆が捕らえられていくのを見て鼓動が速くなる。
「がァっ…!」
蔓に捕まり電撃を流される皆。
笑う男。
私は部屋を飛び出した。
「リジェクション…!」
瞬間止まる電撃としゅるしゅると萎えていく蔓。
電撃で痺れているせいで抵抗無く床に落ちた皆が汗をかきながら「名前…っ」と言う。
隠れてろって言われたけど…無理だよ、こんなの…。
「――お前か」
「う……!」
瞬間後ろから囁かれて振り返る間も無く首を掴まれた。
気管を狭められて苦しい。
そのせいか再び皆に蔓が絡まりつく。
私は首を掴まれたまま持ち上げられて足が床から離れていき苦しさに眉が寄る。
「名前!!!」
皆の声が聞こえる中、無理矢理に顔を合わせられてにやりと笑われる。
「名字名前…お前だな」
「っ…」
「クク…悪い、苦しいか?しかし名字名前がこんなただの娘だとはな…」
「離せ!名前を離せぇえ!」
「ル、フィ…」
首だけで支えられて、しかも体は浮いているから苦しくて意識が朦朧としてくる。
じわりと生理的に浮かんだ涙。
すると男が呆れたように笑った。
「ハッ、こんな娘なら能力以外何も出来ねえな」
…………そ、うだ…私は能力以外何も出来ない…。
こうやって捕まったら、気を抜けば能力も使えない…。
「離せ…」
前まではこんなこと…思ったことも無かった…。
皆私の能力を必要としてたから、必要とされた時に能力を使えばそれで良かった。
私を狙う海賊か海軍が来ても、あぁまた違う人達が来たんだ、位にしか思わなかった。
「名前を…離せ…」
―…でも、今は違う。
サニー号を傷つけられるのは嫌だ、皆を傷つけられるのは嫌だ…嫌だ………こんな、何も出来ない自分は、嫌だ…!
「名前を、離せええええ!!!」
次の瞬間、手が熱くなったかと思えば私の手から電撃が流れた。
それに私を離した男に、蔓を強引に噛み千切ったルフィの拳が直撃して、吹っ飛んでいく。
あ、あれ…?
私いま電撃…と、とにかく皆を離さなきゃ。
「げほっ…リ、ジェクション」
むせながらも言葉を紡げば皆から離れる蔓。
その隙を逃す筈なくルフィ、ゾロ、サンジが男の元に向かっていき、私はナミとロビンに慌てて抱き寄せられる。
ウソップとフランキーは大砲を用意して、チョッパーとブルックはサニー号で倒れている敵を敵船に投げ入れる。
「名前!大丈夫?!」
「わ、たしは…大丈夫…二人の方が…」
「私達も平気よ!」
「………良かっ、た…」
「ルフィ、ゾロ、サンジ!こっちは準備出来たぞ!」
するとフランキーが三人に向かって声を上げた。
ウソップが舵を回して敵船の前にサニー号を移動させる。
「…なるほど、そういうことね」
「…?」
「ドスフルール」
ナミがにやりと笑いロビンが敵達をロープでぐるぐる巻きにし動けないようにする。
「おれらはまだ無理だ!」
「ルフィの言う通りだ。オラ、ヘバってんじゃねえよ」
「が…ゆ、許して…」
「ああ?聞こえねえなあ」
するとルフィの声がして、向けば三人に囲まれながら文字通りボコボコになった男。
え、し、死んじゃうんじゃないかな…その男。
「気持ちは分かるけど早くしなさい!」
「はーっいナミすわぁーん!」
って、えええええー。
ナミまで。
私を支えるナミを顔をひきつらせながら見上げる。
するとロビンが男を同じようにロープで縛り、それを三人が敵船に投げ入れた。
「行くぜ!掴まってろよおめェら!」
「「「おうっ!」」」
「…?」
「風来バースト!!」
あ、なるほどー。
風来バーストで私達はブッ飛んで、後ろに位置する敵船は………え、死ぬんじゃないかな…。
101212.