蜃気楼をつかまえろ | ナノ
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ご飯を作ってくれたサンジと不寝番をしていたブルック、そしてロビン以外はまだ寝ている中、朝ご飯を食べ終えた私は船から降り立った。
そして街に向かって歩き出す。
行き先は、酒屋。


「ゾロ、船番お疲れ」
「ああ」
「明日もだって聞いたけど…暇じゃないの?」
「寝てりゃあ良いんだ、暇じゃねえよ」
「…おー」
「お前は明日も街出んのか?出んなら酒買ってきてくれ」


寝てれば良いってゾロの言葉に、あぁ船番も良いかも…って思ったんだけどまあいいや。


――民家はまだ静けさがあったけど、街の店が並ぶ通りに来たらもうそこは仕入れや掃除で賑わっていた。


酒屋…酒屋…あ、見っけ。


空のお酒の瓶が装飾としてぶら下がっている黒塗りなお店。
ひょいと覗けば、黒いエプロンをした男の人がダンボールを運んだりと忙しそうに動き回っている。


「!やあ、お客さんかな?!」
「あ…はい」
「そっか、幸先が良いな!」
「…?」
「あ…はは、実は僕の店…一昨日始めたばかりなんだ。…さ、何のお酒をご注文かな?」
「………」


…そういえば酒名も酒類も聞いてないや。


「…なんでもいいです」
「そうかい?なら、君はこの店のお客さん第一号だからね!僕のとっておきのお酒を選ぶよ!ちょっと待ってて」


そう言って店の奥へと入っていった男の人。
少しするとガシャンやらバリンなど音が響いてきた。


…大丈夫かな。


頬を掻く。
――ふと視線を逸らした先に公園が見えた。

入口近くにあるベンチに一人の男の子が座っていて、じっと見つめるその先にはサッカーしている男の子達。
その瞳には明らかに羨ましさと、そして寂しさが浮かんでいた。

私は静かにそこに向かい、そして口を開いた。


「ね、」
「!だ、だれだお前!」
「…通りすがりの人。ねえ、一緒にサッカーしないの?」
「はっ!お、おれサッカーなんてガキみたいなことしねえよ!」
「…顔に、一緒に遊びたいって書いてるよ」
「な?!」
「うそー」
「!このやろっ!」


私の言葉に、自分の顔を触った男の子に、んべと舌を出した。
ムキー!と此方を見上げた男の子は、次はいじけたようにそっぽを向いた。


「…おれ、アイツらと友達じゃねーもん」
「…?」
「おれ越してきたばっかなんだよ、この島に。どうせまた直ぐどっか違う島に行くし、仲良くする必要ねーんだよ」
「………」
「………」
「…私はたとえ少しの間だとしても、楽しい方が好き」
「…たの、しい…?」
「ん。確かに仲良くなれば、何時か来る別れは辛いかもしれないけど…でも、きっとその時、仲良くなったことに後悔はしてないよ」
「…!」
「そんな眉間に皺寄せてると痕つくよ」


ぐにっと男の子の眉間をつつく。
そして私は


「おーい」
「?!な、バカやめろ!」
「一緒に遊ぼー」
「っや、やめ…!」


サッカーをしていた男の子達の中から一人此方へ走ってきた。
そしてニカッと笑って


「なんだ?ねーちゃん、一緒に遊びてえの?」
「ん、…あーでもそういえば私用事があったんだったー。代わりにこの子と遊んで」
「っ」
「ん…?あ、お前この前転校してきた奴じゃん!」
「あ、ああ」
「お前サッカー好きか?」
「え…」
「サッカーだよ、好き?」
「あ…ああ!」
「そっか!ならおれの方のチーム入ってくれよ、今一点負けてんだ」
「うおッ」


そしてぐいっと手を引っ張られていった。


「うっ…ぐすっ!」


それを眺めていると後ろから鼻を啜る音がして、振り向けば酒屋の男の人。


あ…酒のこと忘れてた。
ていうかなんで泣いて…?


すると男の人は酒が入ったダンボールを私の前にとさりと置いた。


「これっ君にあげるよ…!お礼だ、ううっ」
「…?」
「あの子、僕の息子なんだ…っ」
「………」


えぇー。
あの子とこの人が親子?
…言われてみれば似てるような気もするけど…このお父さんにあの息子かぁ。


「妻はあの子が5歳の時に事故で亡くなって…それから落ち着く暇も無いまま色んな島を転々としてきたんだ…っ」
「………」
「でももうっ…!僕、この島で頑張るよ!もうあの子に、辛い思いはさせない!」

「――なら私の店で君の酒を売らせてもらえないかね」


すると酒屋から初老のお爺さんが出てきた。
上物のスーツをゆるりと着こなし帽子を被り、片手に杖、そして片手に店のお酒を持っている。


「え、あ、貴方は?」
「私はこの島の全ての居酒屋のオーナーじゃよ、それと隣の島の百貨店のもな」
「え、え、っ?!そ、そんな所に僕の、あ…いや、私のお酒を売って下さるのですか?!」
「ほっほっ、畏まらなくていいんじゃよ。…ああ、今さっきの話を悪いが聞いていてね。私は君の人柄が気に入ったんじゃ」
「あ、ありがとう、ござ、ございますっ!!」


そうして「さて、手続きでもしてくるかの」と去っていった紳士さん。
それをおぉーと眺めていると、ぐしゃぐしゃに泣く男が私の肩を掴んだ。


「あり、ありがどうっ!!」
「…私はなんにもしてないですよ…?」
「いや、君は僕をっ…僕達親子を救ってくれた!」


…ホントに何もしてないんだけどなー…。


すると公園から喚声が上がって、見てみれば息子さんがシュートを決めたのかゴール前でたくさんの男の子達に抱きつかれたりバシバシと頭を叩かれていた。


「篤ーっ!父さん、父さんこの島で頑張るからーっ!今、上手く軌道に乗ったからーっ!」


声が届いたのか篤?は目を丸くさせて此方を向いた。
そして私とお父さんが一緒に居るのを見てギョッとなったが、直ぐに照れ臭そうに笑って


「あ り が と な」


そう口で形作った。



















「ゾロー」
「ん?ああ、名前か」
「これ持ちながらじゃ船上がれないから、取りに来てー」
「あァ?」

――スタッ

「ってなんだその酒の数!俺ァそんなに金出した覚えはねえぞ!」
「あ、これタダだよ、タダ」
「はァ?!これもこれも…良い酒ばっかじゃねえか…まさかお前、盗」
「違うよ…」
「じゃあなんでだよ」
「……色々あって」
「なんだそりゃ。ハッ!まあでかしたぜ!」


上機嫌に笑ったゾロは左手にダンボール、右手に私を抱えるとジャンプして船に着地した。


…どんな腕力と脚力してるんだ、ゾロは。
ウサギもびっくり。


厨房へとダンボールを抱えていくゾロを見ながらそう思った。


「名前〜…!」
「あ、ルフィ」
「お前おれとの約束忘れてたな!」
「…………あ、」


そうだった…今日はルフィと一緒に遊ぶってなってたんだっけ…すっかり忘れてた。


「フンっ!」
「ごめんねルフィー」
「名前のバカやろー」
「ごめんねルフィのバカやろー」
「謝る気あんのかァ!」
「明日は絶対だから、ね?」
「おう!」







101210.