蜃気楼をつかまえろ | ナノ
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テーマ「推しとの恋」
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「ブルック、何読んでるの?」
「ああ…名前さん。これはですね、麦わら海賊団の大切な記録です」


図書館で一冊の本を読んでいるブルックに声をかければ隣をぽんぽんと叩いてくれた。
そこにひょいと座る。


「いやはや…私、感動しました!心が震えて…あ、私もう骨だけでした、ヨホホホホ!」
「…ルフィ、ゾロ、ウソップ、サンジ、ナミ、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック…この順に仲間になったんだ」
「あ、無視ですか。ええ、最初はもっとずぅっと小さな船だったらしいですよ」


ぺら…と新しいページから前に捲っていく。
そしてそう昔じゃないページを読んで、私は手を止めた。

エニエス・ロビー

ひょいと本を覗き込んできたブルックが、ああ…と声を漏らす。


「前に聞いたんですが…ロビンさんは悩んでいたらしいです。自分がこの船に乗る資格があるのか、そして…皆さんの仲間になる資格があるのか」
「………」
「ロビンさんの敵は世界で、自分が死ぬことで皆を助けることになると思ってたらしいです。―…けど、」



「生きたいと、言えェえええ!!!」



「…気付いた、気付かせてくれたらしいですよ。皆さんが」
「あ…ウソップも船降りたことがあるんだ」
「無視ですか?!」


ぱたりと本を閉じると、ううっと泣き真似をしていたブルックがぴたりと止まって


「私も…なれますかね、皆さんの…本当の仲間に」
「…?もうなってるんじゃないの?」
「名前さん…わ、私はまだ新入りでしてね、」
「…皆はそう思ってないよ、多分」
「…名前さん」
「ルフィが船に乗れって言った時に、ブルックが仲間になるって決めた時に、ブルックはもう仲間なんだと思う」

「――名前の言う通りよ」

「!ロ、ロビンさん!」


振り返れば本を片手に持ったロビンが居た。
ロビンは本を棚に戻しながら


「ブルック、くだらない事を気にする必要はないわ。あなたはもう、私達の仲間なのよ」
「ロビンさん…!じゃ、じゃあ今日のパン」
「クラッチ」


………あれ…なんか今の今までいい雰囲気だったよね…?
ちょっとシリアスだけど感動できる話だったよね…?
なんだコレー。


ぐきり!ともろに折れたのが分かるブルックの首。
けど本人は何ともないらしく「やっぱり本当の仲間への道は険しいですね…」と首を戻しながら呟いた。


…本当の仲間ってなんなんだ。



「――島が見えたぞー!」



するとウソップの声が響いた。
窓から外を見れば、前方を小さな望遠鏡のような物で見ているウソップ。

私は図書館を出た。
そして船首甲板へと上る。
見れば海が広がる向こうにぼんやりと島が浮き出ていて、結構大きな街だと分かる。


「………名前、」
「あ…ルフィ」


振り向けばルフィが不機嫌そうな顔で立っている。


…?
ルフィは新しい島が見えたら喜びそうなのに…意外だなぁ。
あれ…ていうか前に好きだって言ってなかったっけ。


隣に来たルフィ。
私は前を見る。


「今ブルックとロビンと麦わら海賊団の……記録…?を見てたんだ」
「………」
「私、色んな船に乗ってきたし、これからも乗ると思うけど…きっとこの船の事は忘れないと思う」


あったかくて、
楽しくて、
素性も分からない私の事を世話してくれた。
…私が危険そうに見えないからかもしれないけど。



ふわり――
「乗せてくれて、ありがとう」



――次の瞬間、船体がいきなり傾いた。


「わっ、」
「島には止まんねえ!」
「ちょっとルフィ、何やってんのよ!」
「止まんねえ!」
「ふざけんなクソゴム!とりあえず止めろ!」


いきなり舵を回しだしたルフィに、色んな部屋から色んな人達が怒鳴る。


あ、ゾロ凄い怒ってる…ああ、筋トレしてたのか。
…じゃなくて、さっきのブルックといい今のルフィといい、この船の人達は空気読めないのか。
ちょっと悲しいけどちゃんとお礼言ったのに、次の瞬間私頭ぶつけたよ。


手摺に掴まりながらルフィの暴挙を見ていると、走ってきたナミがパンチを、そしてサンジがキックをお見舞いした。
しゅうう…と煙を上げるルフィの頭。
地面に伏せたルフィにサンジが足を乗せ、やってきたウソップが舵を取り照準を戻す。


…前も思ったけど、ルフィって船長だよね…?


戻った船体に手摺から手を離す。
そしてばたばたとサンジの下で暴れているルフィに目をやる。


「はーなーせー!サンジー!」
「うるせえ、てめえなにいきなり暴れてやがる」
「うががが…!」


するとルフィが私を見て、目が合った。
グッと歯を結ぶのが分かった。



「島に着いたら、名前が行っちまうだろ!!!」



その言葉にサンジがふっと足の力を抜いてしまう。
それが分かったのかルフィはぐんっと手を伸ばした。
―私に向かって。


「うえっ」


腰に回ったかと思えばぐんっと引っ張られて、勢い良くルフィの胸元に突っ込んだ。


…痛い…二回目だ。


初めて会った時の事を思い出しながら、鼻に手をやる。
するとガシッと肩を掴まれて、顔を上げた。




「お前は、俺の仲間だ!!」



―――……ルフィ……。


私はルフィを真っ直ぐに見上げた。


「でも船の食料危ないらしいよ、ルフィ」







(名前…アンタ空気読めないわね…)
(な…読めてるよ)
(嘘つけェ!)
101114.