「マルコ、ごめんね、私、何も…出来なくて」
「オヤジのこともエースのことも、お前のせいなんかじゃねえよ、絶対に。それに名前…お前が居なかったら、きっともっと、家族を…仲間を、失ってた」
マルコは、私の頭に優しく手を置く。
「ありがとう、名前」
そうして、泣いていた顔をまたグシャッと歪めると、そのまま私を抱き寄せて。
「お前が無事で…良かったよい…!」
私は、ごめんなさい、って…また、言いたくなった。
でも、なんだか違うような気がして、言えなかった。
ありがとう…っていう言葉も浮かんだけど、涙が出てきて、唇を噛みしめて…マルコの背中に手を回して、同じように、抱きしめ返した。
「あのね、マルコ」
そして、ごめんなさいでもありがとうでもない言葉を、口にする。
「少しの間だったけど、お世話になり、ました」
一応、敬語だ、です。
「仲間と離れて…でも、白ひげ海賊団だったから私はまだ、大丈夫だった」
「まだ少しは、お世話させてくれよい、名前」
見上げると、マルコは泣いた後の顔で笑って
「おれらはお前を、お前の仲間のところへ送る。たとえお前の仲間が全員バラバラになっているとしても、送るよい。それが戦争まで来てくれたお前への、おれ達の出来る最大限の恩返しだ」
私は頬を緩めて笑って、首を横に振った。
「私はここで、お別れなんだ」
マルコがひきつったように息をのむ。
「おい、まさか」
「マルコ、ほかの海賊に飛ばされてたら、私は本当に、仲間のところに帰れなかったかもしれない」
「待てよい、名前」
「でもね、白ひげ海賊団だったから私は、」
「待てって!」
マルコの険相に、思わず少し目を丸くして黙る。
「麦わらを乗せた船は、もうマリンフォードから離れた、そしてお前の仲間は、麦わら海賊団だろい」
「…ん」
「それなのに、ここでお別れ、って…!海軍に、捕まったのかよい…?」
必死の形相で聞いてくるマルコの言葉に、けれど、海軍なのかどうなのかとかはよく分からなくて、少し唸る。
するとマルコも、そんな私の様子に少し拍子抜けしたような風に疑問符を飛ばした。
でも直ぐに我に返ったように私の肩を掴むと
「駄目だ、絶対に行かせねえよい!名前…!」
「…でも、マルコ」
「お前、言ってただろい!仲間の元へ、帰るって!」
「それに…私には仲間が居るんだ。とても大切な…。――だから、死んでなんていられないよ」
「…ん」
「それなら…!」
「生きているなら、私は絶対にみんなの…仲間のところに帰るから…大丈夫だよ、マルコ」
かすれた声で、マルコが私の名前を呼ぶ。
私は一歩、足を後ろに下げる。
そして一歩、また一歩と足を下げていけば、肩を掴んでいたマルコの手はひき止めることなく、けれど、手持ちぶさたの状態で宙を指がひっかいて。
「マルコ」
なんとなく、だけど…マルコは責任感も強いし…海軍からも最も捕らえるべき対象の私を、この戦場に連れてきたことを、後悔、してる気がする。
自分達が連れてきて、結局…まあ、誰かに捕らえられることになった…って。
でも私は、自分の意志でここに来たいと思った。
そして白ひげ海賊団のみんなが、それを叶えさせてくれたんだ。
「ここまで、ありがとう」
――私は頬を緩めて笑うと、マルコに背を向けて、走り出した。
――そうして足の動くままに着いた瓦礫の裏。
パチン、と指の鳴る音がすると同時くらいに、身体が傾いて――そして誰かに抱きとめられる。
「身体、動かしてくれて…あり、がとう」
笑い声の中で、私の意識は黒に落ちた。
111212