「う…」
前髪…伸びたなあ。
上を向いたら毛先が少しちくちく刺さって痛い。
切ろう。
…あ、でもこの船ってハサミとかあるのかな。
ゾロとか「要らねーよそんなもん」ジャキィ…!ってやってそうだ。
「あ、ナミー」
「ん?どうしたの名前」
「ハサミあるー?」
「あるけど…どうしたの?」
「前髪切る」
「アンタが自分で?!やめときなさい!」
「え…じゃあゾロに、」
「なんでそーなる!」
ぐわっと吠えたナミは「ちょっと待ってなさい」と言い部屋に消えた。
…チョッパーの怖いものが怒ったナミだって意味が分かる気がする。
するとナミが戻ってきた。
そしてハサミをちょきちょきと遊ばせて、にやりと笑う。
「私が切ってあげる」
チャキン、
ハサミが私の前髪を切る音と、ナミの鼻歌がする甲板。
「〜♪」
「…楽しそうだね」
「言ったじゃない、私妹が欲しかったって」
楽しそうに言うナミはきっと笑顔なんだろう。
…目を瞑ってるから分からないけど多分そうだ。
「ね、名前。アンタ彼氏とか居ないの?」
「居ないよ、ナミは?」
「私は大金持ちと結婚する予定だからそれまで待ってるの」
「……サンジとかは?凄いメロメロじゃん」
「無視したわね。そうねー、サンジ君は女には皆あれよ」
「え…じゃあ私女って思われてないのか」
「なんで?」
「だってサンジの目がハートにならないよ」
「アンタの事は名前って呼び捨てだしね」
そうなんだ。
ナミすわぁーん、とかロビンちゅわぁーん、とかサンジは目をハートにしてメロメロになってるけど、二日目位から私の事を呼び捨てで呼ぶようになった。
特に考えてなかったけど、珍しい事なんだぁ。
するとチャキン、とまた音がした。
「だから私気になって聞いてみたのよ」
「…?なにを?」
「なんで名前だけ呼び捨てなの、って」
「おー」
「そしたらサンジ君も名前は妹みたいなんだって」
「………」
「はい、出来た!」
ぱらぱらと前髪を払われて、そうっと目を開ける。
私を見ていたナミと目が合う。
するとナミは口を手で押さえてグッと親指を立てた。
「っ…やっぱり私ってば天才!」
「…短くない…?」
「丁度いいわ!」
なんだかおかしいナミは気にせず傍にあった鏡で見てみると、眉上になった前髪。
まあ…暫くは目に入らないなぁこれ。
するとキッチンからサンジが出てきた。
「お、ナミさんに髪切ってもらったのか?名前」
そう言って歩いてくるサンジ。
するとナミがスッと私の耳元に顔を寄せて「ちょっと笑顔でサンジお兄ちゃんって言ってみなさい」と言った。
「可愛い可愛い、似合ってるぞ」
笑顔でわしゃわしゃと私の髪を撫でるサンジ。
…ナミが言った方が喜ぶと思うんだけどなぁ。
そう思いながらも、サンジを見上げた(お、刺さらない)。
ふにゃり
「サンジおにーちゃん」
「!」
するとサンジは驚いてビクッと手を離した、かと思えばしゅるしゅるとしゃがみこんでしまった。
ナミは爆笑している。
「あはははは!名前、これからもそう呼んであげなさい。きっと喜ぶわよ、ね?サンジお兄ちゃん」
「っ〜ナミさん…!」
からかうように言ったナミに、サンジはうぐっと見上げる。
…やっぱりナミがそう呼んであげたらいいと思う。
(ていうか私は何歳児だ)
101114.