恋のサンクチュアリ | ナノ
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BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
- ナノ -


夜の街の交差点、森山とバッタリ出くわしお互い思わず、あ、と声を出す。


「名字、バイト帰り?」
「うん。森山は部活お疲れ」
「ありがとう、名字、今日はオムライスが食べたい」


恋人かよ、と前に友達につっこまれたけど違う。


私のマンションと森山の家は近くて、私はほとんど一人暮らし、森山も両親の帰りが遅いことが少なくない、そして女の子が好きなこともあってたまにこうして私の家にご飯を食べたり遊びに来る。
ある意味こいつも私のことを女扱いしてくれる。


「美味しい。やっぱり名字はいい女だよ。どうだ?毎日俺のためにお味噌汁を」
「私一途な女だから」
「なら他の女の子の紹介を、黄瀬のファン以外で」
「森山そうやってがっつくから駄目なんだよ。せっかく見た目も中身もそれ除けばいいのにさ」


テレビを見ながら並んで座って食事をする、と森山がその切れ長の目で私をジッと見てきたので見返す。


「がっつかないって、つまり笠松のようにってことか?」


すると私が答えるより先に森山は何か閃いたような顔をすると机の上に置いていた携帯を取って私と自分を自撮りした。
そうして何やら操作している森山を横目にご飯を咀嚼する。


それにしても斜め上から自撮りとか、慣れてるなこいつ


「確かに最近アイツに清楚そうな可愛い女の子がよく話しかけてるうらやましい!」
「あー……ボブのこと?」
「ボブ……?ああ、髪型か。そうだ、艶のある黒髪、華奢な体、そしてお菓子づくりが得意」
「やけに詳しいじゃん、ボブについて」
「あの子が来る度に笠松が俺のところに逃げてくる。俺は嬉しいからいいけど、可愛い女の子から逃げるなんて、笠松にはあの子がライオンか何かにでも見えてるのか?」
「笠松は私のこと、ケンシロウには見えてないらしいけどね!!」
「何の話だ?」


得意げに笑いスプーンを持ったまま右手の親指を立てれば森山に真顔で問われたので無視して視線をお皿の上に戻す。


「まあ私、ボブは気に入らないけど」
「ていうかちょ、やめろさっきからボブボブ、俺の中であの清楚な女の子が筋肉隆々な黒人男に変わっていく…!」
「職業は格闘家?」
「違う花の女子高生だ…!」
「今度会ったらラップで挨拶してくるかもね」
「やめろあの子はきっとピアノとかを演奏してるはずだ…!チェケラなんて言わない…!」


森山の幻想をブチ殺しご飯も食べ終えた私は、机の上で振動した携帯を手に取る。
すると笠松からラインが来ていて、珍しいなと思いながらその内容にも目を丸くする。




『森山だから良いものの、お前はもう少し警戒心を持て』




「森山、さっきの写メ笠松に送ったんだ」
「お、反応来た?」


画面を見せて、私は思わずデレッと頬を緩めて笑う。
すると森山は息をつくように優しく笑って、私の頭に手を乗せる。


「相手が森山だから違うけど、心配してくれてるんだよね、これ……相変わらず笠松、私のことまで女扱いしてくれてる」


絵文字も何も無いただの文字だけど、笠松がくれたこの言葉が嬉しくて、大切で、眩しいものを見るように目を細めながら携帯の画面を静かに撫でる。


「森山も、信頼されてるよね笠松に。色んなことで」
「そうだな…笠松は俺達を信頼していて、俺達も笠松に厚い信頼を寄せている。黄瀬のことも含めて、最近より一層、良いチームになったと思うよ」


森山が綺麗な笑顔でそう言って、私も口角を上げながらそんな森山を見上げる。
バラエティー番組を流していたテレビも気づけばCMに入っていて、保険なのか住宅のCMなのか、感動的なBGMが流れている。


「いや待てよ、だが見方を変えればこれは信頼というより男として舐められているのかもしれない。名字、ちょっと携帯貸せ」
「残念なイケメンってお前のためにある言葉だよな」


これで良い、と満足げに私の携帯を見る森山は360度どの角度から見ても非の打ち所の無い美形だけど、画面を覗けば『た すけ』とホラーゲームに出てくる日記やらメールの一文のようなものが笠松に向けて送信されていた。


「森山、これ何ーー」


と疑問符を浮かべた瞬間携帯の画面が着信を知らせるそれに変わり、次いでバイブ音も鳴り始める。
笠松幸男、と示された相手との通話ボタンを森山が押しそのまま耳にあてた。


「お疲れ笠松、さっきぶりだな」
「ちょ、森山それ私の携帯だし」
「そりゃあ名字が電話に出られない状況だからだよ」
「なにより笠松から電話かかってくるなんてレア中のレアなのに!」
「……悪い笠松、冗談、ジョーク」
「メタルスライムなのに!」
「分かった、今代わる。…名字、笠松から」
「出たなメタルスライム!えーっとまずはバイキルトして…」


ブチッ、と耳にあてた携帯から音がした。
画面を見れば、終了された通話状態。

私は自分の携帯を片手に森山を見上げた。


「森山、笠松に何言ったの?」
「俺も悪いけど、トドメ差したのは名字だ」
「トドメって、結局メタルスライム捕獲出来てないよ」




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