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「道は三つで図形は二つ……ね」


米花町の資料館にて、例のごとく未解読とされている文書を眺めながら私は呟いた。
図形といって脳裏に浮かぶのは、私がこの世界に来る際に見せられた模様。
もしあれが図形の一つだとすれば、三つの内の道の一つは「どこか別の世界に行く道」だ。
行く道があるならば、きっと帰る道もある。
でないと元の世界の誰かさんは、私を異世界へ飛ばしたりしない。


気掛かりなのは、キャンプ場近くの記念館で見た図形の横に書かれてあった言葉−−行きはよいよい、帰りはこわい。
この言葉の意味が、行く道は簡単に見つかるけれど帰る道を探すのは難しい、なんてものだったら酷く厄介だ。
それに行く道、帰る道ときて、残る一つの道はいったい何なのだろう。
道が三つに対して図形が二つの意味も分からない。


(まだ情報が足りないな……)


私はため息を一つ零して頭を振ると、資料館を後にした。





大通りに出てみれば、何やら東の方が騒がしい。
何事かと顔を向ければ、一台のバイクが視界を物凄い速さで横切っていく。
それだけならばまだ良い−−いや、やっぱり良くはない−−のだが、そのバイクを追うようにして公道を、これまた物凄い速さで滑っていくスケートボードに乗った少年を認めて、私は唖然とした。


「コナン君……」


彼が必死に追っているということは、バイクの男は何か悪いことでもしたのだろう。
子供ながらに正義感に溢れ悪を許さぬその姿勢には、いまや驚くことはない。
だが−−。


(本当に、底が見えない少年だ)


車と同じ速さで滑れるスケートボードなのだとしたら凄い道具だし、それを乗りこなすコナン君も凄い、或いは普通のスケートボードでコナン君の脚力が凄いのだとしたら、そろそろ凄いがゲシュタルト崩壊だ。
そういえば前に、美術館での事件のときも、どこからかサッカーボールを出していたっけ。
謎が多いのは、いったいどちらなんだか。


一人苦笑を零したとき、クラクションが辺りに響いた。
目を丸くすれば、黄色の車が勢いよく近くに停まり、開いた助手席の窓から、切羽詰まったような表情の哀ちゃんが顔を出した。


「あなた前に、車の運転できるって言ってたわよね?」
「うん」


多分、が付くけれど。


「それじゃあ博士の代わりに運転して、江戸川君を追って!」


運転席からよたよたと出てきた阿笠博士に瞬きながらも、どうやら話をしている状況ではなさそうなので、博士と入れ替わるようにして運転席に座る。


「わしは警察に電話しておくから、子供たちのことは頼んだぞ、名前君!」


はい、と折り目正しく返事しながら、私は操作を確認する。
哀ちゃんが不審そうに視線を向けてきたが、後部座席に座る少年探偵団の三人組は、私の行動に疑問を抱くよりも正義感に燃えているようだった。


「いま、引ったくりの犯人を追いかけているところだったんです!」
「だけど車で追おうにも、博士は犯人が乗ったバイクに軽く轢かれちゃって、足が上手く動かせなくて、コナン君が一人で追ってるの!」
「名前の姉ちゃん!犯人とコナンに、追いついてくれよ!」
「なるほどね、そういうことか」


大丈夫、と私は微笑う。


「アクセル踏んで、必要に応じてブレーキも踏んで、あとはハンドルさえ握っていれば、何とかなるさ。皆ちゃんとシートベルトをして、念のためどこかに掴まっておいてね」
「ちょ、ちょっと……!」


青ざめた顔で声を上げる哀ちゃんに、悪戯気に笑って片目を閉じた。


「風に恨みを言うのでもなく、良い風を待つのでもなく−−帆を張ろうか」


発進すると一気にスピードを上げ他の車を抜かしていく運転に、ややあって後部座席から歓声が上がった。
そんな彼らと私とを見比べる哀ちゃんに、私は前方を見据えながら口を開く。


「心配しなくても決して事故は起こさないよ。皆を乗せているんだからね」


言えば、哀ちゃんはため息を一つ零すと眼鏡を起動させ−−何を言っているのか分からないと思うが私も分からない−−コナン君がいる方角への道案内を始めてくれた。




結局、哀ちゃんの導きにより犯人を、コナン君と私たちとではさみ打ちすることに成功した。
犯人を、腕時計から射出した何かで気絶させた−−もう気にしないことにした−−コナン君は、運転席から出た私を見て驚いた顔をする。


「博士やけに荒っぽい運転するなと思ってたら、名前さんだったんだ」
「ジェットコースターみたいだったね!」
「名前さんの意外な一面を知ることができましたね!」
「まるで映画だったぜ!」


はしゃいでいる三人に、コナン君は呆れたように笑う。
眼鏡を外した哀ちゃんは、どこか恨めしそうに私を見上げて言う。


「心臓が止まるかと思ったわ。操作確認してるからまさかとは思ったけど、あなた、車運転できるんじゃなかったの?」
「おや、ちゃんとできていたじゃないか」
「……免許、持ってるんでしょうね」
「ふふ、心配しなくても持っているよ」


元の世界の免許を。


「じゃあ、ペーパードライバーだったとか?」
「まあ確かに乗るのは久しぶりだったかな」


問うてきたコナン君に答えると、私は困ったように微笑って、彼の耳許に顔を寄せて小さく言った。


「恐らくこれから警察が来ると思うから、私はこの辺りで失礼してもいいかな。犯人の傍に子供たちだけを置いていくのは心苦しいのだけれど」
「大丈夫よ。私、子供じゃないもの」


言った哀ちゃんに、コナン君は「おいおい」と苦く笑う。
しかしすぐにぱっと顔を明るくさせて私を見上げると、いいよ、と笑んだ。


「後のことは僕たちに任せて」


私は安堵の息を吐くと、微笑んで礼を述べた。


「その代わり−−」


え、と目を開けば、彼はにやりと笑った。


「名前さんが今日米花町に来てた訳、後でじっくり教えてね」


剥がれた子供らしさに、私は思わず天を仰ぐと息を吐いた。





160313