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「#溺愛」のBL小説を読む
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「名前お姉さん、急に走り出してどうしたの?」
「驚かせてごめんね。顔馴染みがいるのかと勘違いしてしまったんだ」
「僕達の話してた、綺麗な銀髪の人のことですか?」
「そうだよ」
「人違いだったのは残念だけどよ、どうだった?スゲェ綺麗な髪だったよな!」


元太くんの言葉に微笑みながら頷いた。
そして歩美ちゃんと光彦くんの三人と並んで、砂利道を洗い場の方へ向かって歩いていく。

場所に戻れば不安そうな表情を浮かべた蘭と園子が駆け寄ってきた。


「名前さん、いったいどうしたんですか?」
「心配もかけさせてしまったみたいで本当にごめんよ。知り合いがいるのかと思ってーーそう簡単には会えない人だから、驚いて思わず駆けだしてしまったんだ。まあ結局は、人違いだったのだけれどね」
「そうだったんですね。良かった、私何かあったのかと……あ、ごめんなさい。滅多に会えない人だったら、会えた方が嬉しいですよね」
「いいや……ふふ、蘭は優しいね。けれどそう気にしないで」
「だけど銀時、って人、ちょっと変わった名前だけど、男の人ですよね?名前さんが思わず走り出しちゃう位の人ってことは……まさか恋人?」
「もう、園子ったら!」
「違うよ。そう勘違いされることは何度かあったけれど」
「それじゃあやっぱり昴さん?うーん、お姉さまの恋愛関係は謎に包まれているわね」


顎に指を添えて考え込む園子のブレなさ具合に笑い声を漏らす。
そうして阿笠博士や他の少年探偵団から離れ一人腕を組んで私を見ていた哀ちゃんの方へ歩いていく。


「謎に包まれているのは、恋愛関係だけじゃないけどね」


哀ちゃんの言葉に苦笑しながら辺りをフイと見回した。


「コナン君、知らない?」
「江戸川君なら、血相を変えて走り出したあなたの後を追いかけていったわよ。会わなかったようね」


「名前お姉さーん!」
「コナーン!」
「安室さーん!」



先程、少年探偵団が探していた人物は三人。
私とコナン君、それに透。
コナン君に続いて透も、私の後を追ってきていたんだろう。


砂利道で、歩いただけでも音は鳴っていただろうにまったく気がつかなかった自分をまた笑いたくなる。


けれど私を追いかけてきていた二人と会わない、そんなことあるだろうか。
あの道は一本道で、私は道の到達場所、河原へと向かう前に踵を返して森の方へと入った。
木々の中を練り歩いてからは見失ったかもしれないが、砂利道で立ち止まり、振り返った私のことは見ていた筈だ。
そこから追いかけてきたかどうかは定かではないけれど……。


あの時自分はどんな顔をしていたかな……とりあえず情けない姿をさらしたことは間違いないだろう。
いったい私はどれだけ視野が狭まっていたんだ。



ため息を吐いたところで後方から足音が聞こえた。


「おや。名前は先に戻っていたんですね。見失ってしまいましたよ」
「お前、意外と抜けてんなあ」
「失礼ですよ、元太くん!」
「コナン君、こわい顔してどうしたの?」
「いや……」


コナン君が私を見る。
少しだけ眉を寄せたその表情は真剣で、加えてどこか不安そうな、心配そうな色も窺えた。


ーーお節介焼きの彼に、見せるものではなかったな……。















「夜になったら少し冷えるけど、その分やはり星が綺麗じゃのう」
「どこが一番綺麗に見られるかな!」
「やっぱり丘の上の展望台じゃないですか?」
「はやく行こうぜ!」
「その前に片付けやらを済ませないと、帰ってきてから面倒なことになるわよ」
「いいよ哀ちゃん。片付けは私達がするから、みんなは先に行ってて?」
「そうそう。ガキンチョ共はさっさと行った行った」
「僕もお手伝いしますよ」


ーーあれから夜になりカレーやデザートの果物を食べ終えた私達は洗い物を済ませ、あとは少しの出たゴミを片付けるところだった。
私も蘭達と同じ行動をしようとしたのだけれど、手をコナン君に掴まれる。


「名前さん、星空見に行こう?」
「……けれど、片付けを……」
「ね?ね?行こう!僕とっておきの場所知ってるから、名前さんと二人で見たいな」


えーっ、という声が少年探偵団のお馴染み三人から上がる。


「コナン君ってやっぱり年上が好きなのかなあ……」
「大人の女性と二人きりで星空を見るなんて、本当に君はマセてますね」
「お前また抜け駆けかよ!」
「コナン君、どうせなら皆で……」
「やだやだ、名前さんと二人がいい!」


私の手をグイグイと引っ張るコナン君。
園子が腰に手をあてた。


「ったく、本当に団体行動が出来ないんだから」
「ですがコナン君がここまで強請るのも珍しいこと……どうでしょう、たまの願いを叶えてあげるのも良いかと思いますが」
「そういえばそうかも……名前さん、お願い出来ませんか?片付けは私達でやっておきますから」
「それじゃあ、子供達には私と博士が付き添うわ」
「ほれほれ、あったかい恰好をするんじゃぞ」


大人組(哀ちゃんは子供だけれど)の言葉を受けて、またあれほど子供扱いされるのを嫌がるコナン君がみんなの前でしてみせたこの行動に、私は折れる。


「そうだね、それじゃあ行こうか」
「バンザーイ!行こ、名前さん」


明るく笑うと駆け出したコナン君に手を引かれ、河原の方へと歩いていく。


「……そんなに引っ張らなくても逃げないよ」
「……本当に?」
「おや酷いねコナン君。私が嘘を吐いた時があって?」
「ハハハ……」


乾いた笑い声が返ってきた。
けれど少し先を歩く彼のその表情は真剣で、黙って私はその横顔を眺めた。


ーー河原へ着くと日中とは違いそこに他の人の姿は見当たらない。
光彦くんの言っていたように皆、星空を見るならば展望台へと行っているんだろうか。

確かにここからでも星空は綺麗に見られるが、とっておきの場所ではないはず。
けれどコナン君が何故子供らしさを演じてまで私と二人きりになりたかったのか、それは分かっていたから何とも思わない。



私を真っ直ぐに見上げるコナン君に向き直った。

彼が私の名前を呼ぶ。


「黒づくめの組織と、手を切るんだ」


私は思わず目を丸くさせると瞬いた。


「いったい君から何を言われるだろうと色々考えていたのだけれど、これは予想外だったな」
「言いたいこともあるし、聞きたいこともある。だけどそれは、まず名前さんが奴ら組織と手を切ってからだ」
「けれどそれについての話は君と出会ったその日にしたよね?」
「うん。ーー黒づくめの組織が名前さんに情報を求めているようにまた、名前さんも奴ら組織に情報を求めてる……」
「そう、ギブアンドテイク……だから手を切るつもりはないよ。気持ちは変わってない」


一歩前に出ると空を見上げる。
空気は確かに少し冷たいけれど、澄んだ空気に星は綺麗に輝いている。


「だけど……ねえ、名前さん」
「何?」
「名前さんが欲しい情報って、さっき呼んでた人のこと……?」


ピクリと指先が動く。


「名前さんは黒づくめのような奴らを嫌いだって、そう言ってたよね。それなのに手を組んでまて欲しい情報、それはとても名前さんにとって大事なもののはずだ」
「…………」
「だからさっきの名前さんを見てーー」


「銀時……」


「その人が名前さんの求めているものなのかもしれない……そう思ったんだ」


先程とは違い低く、けれどどこかあたたかく紡がれるコナン君の言葉。


「ーー違うよ」
「…………」
「残念だけどねコナン君、今回の推理はハズレだ」
振り返る。
納得していない、そんな顔で真っ直ぐに私を見てくるコナン君に、私は手を後ろで組むと首を傾げて微笑む。


「本当だよ。嘘じゃない。ーーまあ間接的に関係はあるかもしれないけれど、それでも大したことじゃない。私が求めているものは、別のものだよ」


あの世界へ帰る情報を得れば私はその世界の住人達と再会できるだろう。
だから関係が無いと言えば嘘になる。
けれどそれは付属だ。
彼らに会いたいが為に世界へ戻ろうとしているんじゃない。


「それに言ったでしょう?彼ら組織と繋がっていれば様々な危険があるかもしれない、けれど私は強い、だから大丈夫、ともね。君と出会ってから少しの時が流れたけれど、私が人より強いことはもう十分に理解してもらえたと思っているよ」


アイスクリーム屋、服部君に米花博物館、それに少し前は京極君。
比較的平和な世界だという認識を覆されはしたけれど、その分言ったように私の強さを理解してもらえたはずだ。



けれどコナン君は少しだけうつむくと、ポツリと話し出す。


「確かに名前さんは、強いと思うよ。黒づくめの組織と戦うことになったとしても、名前さんなら、勝てるかもしれない」
「うん」
「だけど強いのはーー体だけだよ」
「ーー!」
「名前さんが隠しているのは何かの情報だけじゃない。あんなに傷ついた顔をしてたのに、歩美達の前に現れた時はもういつもの笑顔だった。ーー名前さんは隠してるんだ。その笑顔で。自分の弱ーー」
「コナン君」


彼の言葉を遮って名を呼ぶ。

私は視線を彼から再び空へと変えた。


「君は素晴らしい人だと思うよ。正義感が強くて、仲間思いで、勇気があって。ーーけれどね君の手のひらの大きさを、過信してはいけない」
「…………」
「君はその小さな手からは想像も出来ないほどたくさんの人を救い、そうして守っているね。だけど重すぎる誰かをその手に乗せれば手はぐらつき、君が最も守りたい人をその手から取りこぼしてしまうかもしれないよ」
「その誰かが、名前さんだって言うの?」
「さあね……あくまで譬えだよ。ーーそれに抱え込んだ人間が、君の大切な人達を傷つける可能性だってある。危ない橋は渡らない方が良い」
「名前さんは、そんなことをする人じゃない」
「……私と君の付き合いは短い。人をそう簡単に信じては痛い目を見る、とはよくある言葉だね」
「疑うよりはずっと良い、そういう言葉もよくあるけど?」
「けれど君は探偵なんだから疑わなきゃ解決の糸口は見つけられないでしょう?」
「捜査ではね」
「ふふ、今は捜査でないと言うなら、私のことを暴くのはやめてくれないかな」


コナン君のことは好きだけれど、彼は一旦スイッチが入ると素晴らしい推理力で全てを見透かそうとしてくる。
とても居心地が悪くてかなわない。


「ーー嫌だよ」


そうして力強く言われた否定の言葉に私は思わず目を丸くして彼を振り返った。
得意気な笑みを浮かべたコナン君は続ける。


「俺は探偵なんだ。だから謎はすべて、解き明かしてみせる」
「……女性の秘密を暴くことはお勧めしないよ」
「だけど謎を解き明かせば、その解決策も見つけられる。そうして名前さんの悩み事が無くなって、綺麗に笑ってくれるんなら、そっちの方がいいと思うけどな」


ーー君、本当にマセてるね。
私は数秒経ってやっと、そう言った。












ーーあの後コナン君の探偵バッジに歩美ちゃんらから連絡が入って、急かされたコナン君は慌てながら走っていった。
私も一緒に行くという選択肢もあったのだけれどそれはせず、大きな石の上に腰を下ろすと静かに流れる川を眺めている。


ーー水や空は誰の元へも繋がっているっていうのは嘘だな……。


ぼうっとそんな下らないことを考えていると微かに後ろから聞こえた物音に、笑みを浮かべた。


「君は私に、いったい何者なのか、そう聞いたね」


ええ、と後ろで声が答える。


「けれど私としては、確かに川のせせらぎ等自然の音が多くあるにしても、耳を澄ましていなければ聞こえないほど音を消して行動できる君の方が、何者なのかと思うよ。透」
「僕は名前も、気配や音を隠すことは上手だと思うよ」
「ふふ、お礼を言うべきかな?」


隣に腰を下ろした透は笑顔で、言ってみればコナン君よりも食えないと思う時がある。


「君って結構白々しいよね」
「酷いな」
「だってさっき、本当は私を見失ってなんかいないんでしょう?隠さずに私をジッと見ていたコナン君の方がまだ可愛げがあったね」
「可愛いと言われて喜ぶ歳はとっくに過ぎてるからね。それに場の空気を和ませることも必要だったよ。せっかくの楽しいキャンプなんだから」
「せっかくの楽しいキャンプで、私とコナン君の二人きりの時間を覗いていたのはどこの誰かな」
「覗いていたなんて人聞きの悪い。僕はただ邪魔しちゃいけないと隠れて待っていただけだよ」


本当、見た目からは想像できないほど、ああ言えばこう言うというか……。
口から生まれたのではないかと思う人が多くいるな、この世界には。


「コナン君はあなたの謎を暴くことを諦めはしないだろうから、早々に折れた方が名前の為だと思うよ」
「彼は名探偵だからね……」
「やっぱり勘違いをしてる」


透に指摘されて首を傾げる。
彼は人差し指を立てて得意気に口元に笑みを浮かべた。


「名前の謎を暴くことを諦めないのは、それがとても大きくて解くことがワクワクするような謎だからじゃない。名前がもう、大切な人の中に入っているからだよ」


私は黙る。


「そんな人を悩ませ傷つけているものを暴き解決したい。そう思うのは、何も探偵に限ったことじゃないかもしれない」
「……彼は人が好すぎるね」
「名前をその対象に入れることは、別段おかしなことではないと思うけどな」
「君もお人好しだ」
「ーー自首をするつもりはないのかい?」
「自首って、ふふ、自分から話すということ?それなら答えはノーだよ。ない」
「けれど悩みを打ち明ければ心が軽くなるーーそういう言葉もまたあるはずだ。僕達じゃ、名前の重荷を受け取るのには頼りない?」
「……君達って時々とても臭い台詞を吐くよね」


けれど月明かりに照らされる透をぼうっと眺めて、私は前に彼とこうして二人で話していた夜、脳裏に浮かんだいつの日かの光景が何だったのか、それを思い出していた。


ーー透はほんの少しだけ、先生に似ている。
物腰が柔らかくて、けれど時に厳しくて、だけどやっぱり酷く優しい言葉をかけてくれる。
透が今、私とコナン君との関係を話してくれたのと同じように先生も昔、銀時達から距離を取ろうとする私の背中を押した。

それに髪の色も思えば似ている。
……先生はもっと色白だったけれど。


「名前……?僕の顔に何かついてる?」
「いいや、見とれていた」
「見とっ……!……僕からしたら君の方が遥かに恥ずかしい台詞を言うよ」


透の言葉に私は笑う。
そうして水面に揺れる星々を見やった。


「いいんだ、これで。重いままでいい。私は他に何も、抱えていないのだから」




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