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「#溺愛」のBL小説を読む
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米花博物館でのパーティーを土曜日に控えた週、祝日がありその日の朝、阿笠博士からいただいたバッジにコナン君から連絡が入った。
名前さんに会わせたい人がいるから今日会えないか、と。

予定は入っていなかったので了承したが、弾んだような子供らしいコナン君の声音に僅かな嫌な予感が脳裏をよぎった。
コナン君が私に会わせたい人…それにコナン君がその人に私の話をしたところその人自身も会いたいと言ったらしい。


青子ちゃんと近くの遊園地に行くという快斗を見送ってから、私も待ち合わせの場所へと足を進めたのだった。






「ーー西の高校生探偵、服部平次や。よろしくな、名前さん」
「私は遠山和葉!蘭ちゃんや園子ちゃんが言ってた通りやわぁ、名前さん、別嬪さんやね」
「…どうも、ありがとう」


待ち合わせたのは米花町にある広々とした公園、といっても遊具などは無く、延々と広がる緑の上にたまにベンチが見えたり、犬とフリスビーで遊んでいる人や敷物の上でランチを食べている人の姿が見られる。

一際大きな木の下で、木漏れ日を浴びながら挨拶してくれた二人は、通っている高校の開校記念日と重なり連休になったため東京に来たらしい。

穏やかな笑みで返す。


「知ってるようだけれど私は名字名前。よろしく頼むよ、二人とも」


そうして可愛らしくにこっと笑う彼女と、好奇心をその瞳に輝かせて探るように見てくる彼…を見て、私は隣にいるコナン君を見下ろした。
けれどコナン君は私の視線を受けとめると悪戯気にエヘヘとわざとらしく笑い声を上げる。

和葉ちゃんが蘭や園子と話し始めるのを視界の端に入れてから、私はコナン君と目線を合わせるため膝を折る。


「探偵というものは記憶力に優れているんじゃないのかな」
「なんのこと?」
「とぼけても駄目だよ。前に言ったでしょう、適度な距離ならば逃げないよ、とね」
「エヘヘ、まあまあ、平次兄ちゃんが名前さんに会いたいって言ったのは、何も探偵だからって理由だけじゃないから」


後頭部に手をあて笑うコナン君の言葉に、私は立ち上がると首を傾げる。
すると服部くんが地面に落ちていた長めの木の棒を私に向かって投げた。

それをキャッチして、意図を微笑みで促すと和葉ちゃんと蘭と園子の三人が駆け寄ってくる。


「名前さん、蘭ちゃんに聞いたんやけど剣道習ってたんやろ?それもかなり強いって。ほんでお願いがあるんやけど、平次と一勝負交えてくれませんか!」
「服部くんと?」
「ねえ、やっぱり止めといた方がいいよ和葉ちゃん」
「なんや蘭ちゃん、まだ平次が負けるかも思て心配してるの?」
「うん、名前さんってきっとかなり強いし…それに、」
「大丈夫や!平次は強いし、それにーー名前さんの話聞いてから平次、強い人と戦える思て目キラキラさせてんねや」


和葉ちゃんはそう言うと、自身も丁度良い長さの木の棒を見つけニヤリと挑戦的に笑う服部くんを見て笑う。
その少し赤く染まった顔には愛しさや嬉しさが隠されることなく舞っていて、私は思わず口元に浮かべた笑みを深くした。


「だから、お願いします!名前さん!平次と一戦交えてやって!」
「本当にやるの?蘭が心配してるのは、服部くんが負けるかもってことだけじゃなくて、そのキラキラした目で他の女性を見ることになるかもしれないってことよ」
「私は構わないよ、手合わせしても」


告げると蘭はどこか焦ったように声を上げ、和葉ちゃんは顔を輝かせる。


「ねえ和葉ちゃん、服部くんについて一つ聞きたいことがあるんだけれど」
「ありがとう名前さん!あと、和葉って呼んでください。それに平次のことも、何でも!」
「ありがとう、それじゃあ和葉、服部くんは謎と剣道…どちらが好きなのかな」


私の言葉に目を丸くすると、次いで顎に指を添え唸り始める和葉、そしてそんな彼女をハラハラと見守る蘭と、何やら面白いことを見つけたようにニヤニヤとしている園子。


さっき園子が言っていた、蘭の心配事は分かっている。
恐らく彼、服部くんはコナン君に似ている。
好奇心旺盛で、謎を解き明かす知識、気力、体力を備えていて負けず嫌い。
和葉の言葉、そして挑戦的な笑みを浮かべている彼の様子からしても、きっと服部くんの剣の腕は強いんだろう。
だとすれば自分よりも強い相手がいると分かったら更に目をキラキラさせて、打ち勝つために執着する筈。


「うーん、やっぱりそら謎の方かな。でも平次、剣道もかなり力入れてんねん」
「なるほどね」


和葉に礼を言った私は木の棒を撫でると服部くんに向き直る。
そうして待ちわびていたらしい、服部くんは口元に笑みを浮かべるとかぶっていた帽子をコナン君の頭に預けて対峙するよう歩いてきた。


スッと、人差し指を立てる。


「一つ条件があるんだけれど、のんでくれるかな」
「それやったら俺もや」
「おや、何かな」


穏やかな昼下がり、の筈なのに場に満ちる空気は緊張したもの(手にしているのはただの木の棒だけれど)。

私と、対峙する服部くん。
それにいくらか距離を置いて見守るコナン君らギャラリーの間に柔らかな風が吹く。


「俺が勝ったら、名前さんの秘密全部、教えてもらうで」


その風に靡く髪を耳にかけて、服部くん、そしてコナン君にも見せつけるように口元に弧を描く。


「私が勝ったら、服部くんには二つの選択肢から一つのみを選んでもらうよ」
「二つの選択肢?」
「そう、謎を暴くか、剣の勝負を続けるか。勝負を続けたいと思うならば、謎を暴く道は諦めてもらうってことさ」


フッと笑い木の棒を握りしめ構える彼のその行動を肯定と受け取った私は、同じようにそれを構えた。



強めの風が吹く間、ゆっくりと息を吐く。
風が木の葉を揺らす音が耳に届く中で、徐々に爪先へと重心をかける。


息をすべて吐き切ったその瞬間、風が止むと同時に地を蹴った。


息をのむ彼の懐に一瞬で入り込み、驚きの色に目を染める彼目掛けて腕を振る。
すると素早く反応した服部くんは防御しようと腕を交差させる。


「釣られたね」


けれど私の一振りはフェイク。
私の言葉に思わず固く動きを止める彼の背後に素早く回り込みーー後頭部に狙いを定めピタリと止めた。




「勝負あり。…で、良いかな」




呆気に取られているギャラリー。
ギギギと錆びついたブリキのように首を回し驚きの表情で私に振り向く服部くん。


こうも早く決着をつけさせてもらうのは些か申し訳なかったが、彼に、謎を暴く道ではなく勝負を続ける道を選んでもらうには強烈に惹きつける必要があったのだ。
私と彼の間には圧倒的な力の差があり、性別は違えども、逆に女性ならではの素早さと小回りがきくことを生かして、彼の脳に強敵であることを強く印象付けたかった。


まあ驚きに見開かれた彼の瞳のその奥に、ギラギラとした獲物を見つけ果敢に挑もうとする挑戦心や、キラキラとしたまるで宝物を見つけた子供のような色が見えてきたことからして、どうやら思惑通りに事が進んでくれたらしい。


ガッと私の肩を掴む彼に微笑んだ。


「ちょお待て!なんやねんこの強さ!なんで名前さんみたいなほっそい体した姉ちゃんがこないに強いねん!」
「私の強さの秘密を知りたいならば、ふふ、私はひどく言葉下手だからね、剣を交えることで教えるよ」
「よっしゃ!ならもう一度ーー」


服部くんが言いかけたところで、コナン君と和葉が私達二人の間に割り込んでくる。


「アカンアカンアカン!ぜーったいアカン!平次、もう名前さんと戦うのは禁止や!」
「ハァ?なんでお前にそないなこと言われなあかんねん。和葉、この姉ちゃんものごっつ強いで。お前も見てたやろ、邪魔すなや」
「だからって、そないなキラキラした目で名前さんのこと見んといてや!」


木の棒を差すところが無いので、私はそれを静かに地面に置くと、ふむ、と顎に指を添えた。


この服部くんという彼、恐らくは頭脳明晰。
加えて野性的なカンも鋭そうに見える。
そんな高校生探偵に秘密を探られるのは是非とも遠慮したいものだが…かといって和葉の心をかき乱すのも本意ではない。
まあ服部くんが私に抱いているのは淡い恋心などではまったくないのだけれど。


「おい服部!まんまと乗せられてどうすんだよ!?勝負を続けるってことはつまり、もう秘密を暴けなくなるってことだぞ!」
「あ」
「あ、じゃねーよ」


服部くんが勝負を続けるという道を選びそうになったことに余程焦ったらしい、コナン君が声を抑えることなく言った話の内容に、やはりかと内心ため息をつきながら蘭と園子の方へ歩き出す。


「ねえ名前さん、服部くんが言ってた秘密ってなんのことですか?」


すると問うてきた園子に肩をすくめると首を傾げて惚ける。


「恐らくだけれど探偵というものは、誰彼構わず人のことを知りたいと思う生き物なんだよ。だから初対面の私のことが気になったんじゃないかな」
「あ、なるほど。新一くんもそうだもんね」
「新一くん?」
「私の幼なじみなんです。服部くんに対して東の高校生探偵っていわれてて」
「……そう、東の」
「ま、幼なじみってだけじゃなく旦那なんですけどね」
「ちょっと園子!」


からかう園子と照れる蘭。
微笑ましいその光景に、けれど表面上だけで笑う。


…もしかして東西南北いるんじゃないだろうな。


「まあ服部くんがどちらの選択肢を選ぶにしても勝負はもう終わりだね。せっかく二人が大阪から来たのに私との勝負で時間が潰れてしまうのはもったいない」
「服部くんは喜びそうですけどね」
「ていうかもう全然関係ない喧嘩になってるし」
「こ、このまま観光とか出来るのかな」


蘭と園子の言葉にそちらを振り向く。
確かにもう私との勝負云々とは別の何かでキャンキャンと言い争っている。
そんな二人を見上げるコナン君の呆れたような表情からしても、夫婦喧嘩はなんとやらだ。


「心配ないよ、恋人達の喧嘩は恋の回復だというからね」


言うと服部くんと和葉の二人から、恋人ではない、という言葉がそれぞれ飛んできた。
息ピッタリで言われても説得力に欠けるところはあるが。


「言われてみれば確かに、蘭と新一くんもいつも痴話喧嘩してたっけか。あれは恋の回復をしてたのね」
「そ、園子!痴話喧嘩なんかじゃないってば!…それに……最近は喧嘩も出来ないくらい、会ってないんだから」
「蘭…」
「知らないわよ、あんな推理オタク」
「そういえば私もしばらく京極さんに会ってないなぁ」


恋多き年頃の子達の会話の流れを見つめていると、園子が私を見上げた。


「名前さんはどう思います?特に蘭の彼の新一くんって男、もう何ヶ月も蘭のことほったらかしにしてるんですよ」
「か、彼じゃないですからね?名前さん」
「蘭の抱える寂しい気持ちを味わわせてやるために、別の彼を作って焦らせてやるとか!」
「それは園子がナンパされたいだけでしょ」


息の合ったかけ合いを見せる二人に思わず笑い声をもらす。


「私の予想だけれど、きっとその新一くんも蘭と会えない間、蘭と同じ気持ちを抱いていると思うよ。それでも中々会えないってことは何か厄介な事情があるのかもしれないし、そう意地悪して苛めては可哀想だね」


そうして蘭の胸の前にスッと手をかざした。


「お互いに想う気持ちで君達は繋がっている。不安になるのも分かるけれど大丈夫だよ。遠くにあろうとも、愛はいつでもそこにあるものさ」


微笑むと、その手を二人に握られた。


「名前さん、今度体の使い方だけじゃなくて教えてください!色々と!」
「わ、私も私も!名前お姉さま!」




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