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「本当にすみませんでした…!!」


通報により到着した警察の人達と知り合いなのか砕けた口調で事情を説明する歩美ちゃん、光彦くん、元太くんの三人を視界の端に捉えながら、私の前で頭を下げる二人の強い女子高生に手を振った。

お店から出て駐車場で話す私達にも、引かれたテープの外にいる野次馬たちの興味津々な視線が注がれている。


「てっきり私、床に倒れていた女性が、コナン君達が言ってた名字名前さんだと思って…」
「あの状況ではそう誤解するのも当然だよ。気にしなくていい」


そう言うと二人は安心したように息をつき、そうして店へと視線をやった。
つられて見やれば、起こされて意識が戻ったのか犯人の女性が両脇を刑事に固められうなだれたままパトカーへと向かっていく。

私は笑みをたたえながら視線を二人に戻す。


「けれどそうか、コナン君がお店の看板をクローズにさせたのは、待ち合わせの場所に指定したお店が閉まっているということを不審がらせて警察に通報させることが狙いだと思っていたのだけれど…」
「おかしな状況に、コナン君達に何かヤバいことが起こってるんじゃないかと思ったら、カーッとなっちゃって」
「私も世良さんの推理を聞いたら、いてもたってもいられなくなっちゃって」
「ふふ、君達も正義感が強いね。それにコナン君の狙い通り、君達ほど強ければ連携するなりして犯人を確保出来ていただろうね」
「いや、名前さんの方がずっと強いよ」


世良の姉ちゃん、と呼ばれていた彼女が嬉しそうに笑う、するとちらりと見える八重歯が印象的だ。


「僕、女性に倒されたことなんて無かったから、ドキドキしちゃった」
「名前さんの型、よく分からなかったんですけど何を学んだんですか?」


蘭姉ちゃん、と呼ばれていた彼女の問いに答えようとした時、隣にいるコナン君が私の手を取った。


「剣道だよね?」
「ええっ!?け、剣道!?」
「だって、タコの位置がそうだもの」
「おや、流石だね小さな探偵さん」
「そ、それじゃあ竹刀を握ればもっと強いってこと?っ名前さん、今度是非ご教授お願いします!」
「あ、僕もお願いしたいな」
「蘭姉ちゃんも世良の姉ちゃんも、それ以上強くならなくて良いと思うんだけどな」


そうしてひきつったようにアハハと笑うコナン君は、私の名を呼ぶと手を引っ張ってくる。


「おやおや〜?ませたガキンチョね本当、大人のお姉さんと二人きりでお喋りしたいってか?」
「そ、そんなんじゃないってば園子姉ちゃん」


いくらか彼女ら三人と、そして警察の人達とも距離を置いたところでコナン君が足を止める。

私は目線を合わせるため膝を折り、微笑みながら首を傾げた。


「どうしたの?コナン君」
「…黒づくめの組織が欲しいものって、もしかして名前さんのその強さ?」
「ああ…違うよ。まあ私が人並み以上に動けることも喜んではいたけれど」


すると哀ちゃんが後ろで手を組みながら近寄ってきて私を見やる。


「でもあなた、どうして犯人の言いなりに私達のことを縛ったの?人質の救出も合わせてあなた一人で出来たんじゃない?」
「犯人の彼女、怒ったと思ったら笑ったりと見るからに不安定だったからね。子供といえど五人もいたから、そのことも彼女の不安要素になっていたんだと思う。だから縛ることによって身動きを取れなくさせ、落ち着いてくれるならと思ってね」
「だけど名前さん、犯人のこと少し追いつめすぎだよ。まだ手元にナイフはあったんだし」
「彼女の逃亡意欲を無くそうと思ったんだよ、それが一番穏便に済むから。…山をこえても海をこえても結局、自分からは逃れられないからね」


世界をこえたとしても、ね。


すると私の言葉に何やら考え込む哀ちゃんを見ていると、ズボンのポケットに入れている携帯電話が振動し着信を知らせた。
そのことに息をのんだのは私ではなくコナン君と哀ちゃんの二人。

立ち上がり携帯を手に取った私のもう片方の手をコナン君が引き走り出した。


「灰原、後を頼む」
「あっこらガキンチョどこ行く!」
「ごめん、事情聴取お願い!また後で合流しよう!」
「悪いけどお願いするよ」


走り出すコナン君が止まらないと判断した私は、年下の子供たちに事情聴取を引き受けさせることを申し訳なく思いそれを伝えながらも内心で安堵していた。
コナン君や世良さんという探偵がいる中、どうやって事情聴取を免れるか…警察と関わらないか、少し頭を悩ませていたから。


野次馬の中を抜け、人通りの見られない一角でコナン君が立ち止まる。
真剣な表情で私を見上げて頷くコナン君にも聞こえるようにと膝を折り、何度目かのコールでやっと通話ボタンを押し耳にあてた。


「もしもし」
「俺だ。今どこにいる」


声の主に、隣で同じように携帯に耳をあてているコナン君の目の色が変わる。
声だけで判断出来たと見えるその反応に少し驚きながらも私は口を開く。


「米花町だよ」
「ならいい。前に送ったメールの件で必要なものを今から言う場所に置いておいた。取りに行け」
「必要なもの?」
「調べたと思うがドレスコードがあっただろう。ハッ、お前に職や住居を提供してる奴も、流石に女物のドレスは提供出来ねえだろうからな。見た目で目をつけられたら上手く立ち回れない、用意した物を着ていけ」


見た目のことを君達が言うのか。


「ありがとう、お気遣い感謝するよ」


そうしてジンは住所を告げるとブツッと通話が切った。
横暴な恋人のような電話に、私はコナン君を見ると眉を下げて微笑む。


「ごめんね、会話伸ばせられなかったよ」
「いや、いいよ、この電話で黒づくめの組織の居場所を突き止めようとは思ってないから。それより、前のメールで送った件ってなんのこと?」
「今度、米花博物館でパーティーがあるんだ。それに着ていくドレスを用意してくれたらしいね」
「それってもしかして、一週間後の土曜日の?」


立ち上がりながら言うと返ってきた言葉に目を丸くする。


「知っているの?」
「うん…さっき蘭姉ちゃんのお父さんが探偵だって言ったよね。そのおじさんのところに招待状が届いたんだ。人数に制限は無いから、今日いた人達は全員行く予定だよ」
「そう、まあ組織の人が来るかどうかは心配しなくていいと思うよ。乗り込むのは私だけだから」
「え、そうなの?」
「そうだよ。人員を割くほど私はまだ信用に足りる相手ではないし、今回のパーティーの内容は、手袋が配布され、いつもはケースの中やらに仕舞われた物を手に取り見れるといったものでしょう。私がそこで知識を得ればいいだけの話だから、そもそも他の人は必要無いの」
「それじゃあ黒づくめの組織が欲しい知識が、米花博物館の展示物にあるんだね」


だろうね、と言うと私はジンが指定した場所に向けて歩き出す。
そうして着いてこようか迷う素振りを見せたコナン君に手のひらを向けて制す。


「おそらく指定場所に彼らがいたり、どこか遠くで見ていたりという可能性は低いけれどゼロではない。念のために君は待っててくれないかな」
「分かった。それじゃあここで待ち合わせにしよう」
「その後また少年探偵団やらと合流だよね。直ぐに戻ってくるから」















ーーそうして指定場所に置いてあった紙袋を一応調べてからコナン君の所へ戻り、彼に促され、私の次の住居として用意してくれている家にやってきた。
立派な洋館の隣は阿笠博士という人の家らしく、そこで少年探偵団やらが待っているらしい。

そうして先ずはと案内された洋館から出てきた人物に私は目を丸くした。


「おや、久しぶりですね名前」


にこりと笑む男性は、先日道端でぶつかった昴だった。


その時の昴の色々な行動の辻褄が合って、私は息を吐きながら微笑む。


「偶然ですね、まさか名前が、今度からここに住むかもしれない人だったなんて」
「偶然、ねえ…ふうん?私は運命だと思うけれど」
「…ッフ、名前が言うなら、そうですね、運命にしても構わないですよ」


お互いに笑みを深め合う私達に、コナン君が驚きながら、そうして恐る恐るといった風に口を開く。


「二人とも会ったことあるの?」
「うん、先日ね。私が名前を告げた時の反応からして誰かの知り合いだろうとは思っていたけれど、コナン君の方だったか」
「コナン君から話を聞いて、是非一度直接お会いしたいと思いましてね。黒い長髪に白い肌、米花町の近くに住んでいて、かつ最近このあたりに来たから毎日散策しているらしい…とすればいつかは会えると思いましたから」


呆れた笑みを浮かべ昴を見上げるコナン君。

私は大仰に胸に手をあてるとため息をつく。


「悲しいよ昴、運命ならばもっとはやくに見つけてくれると思ったのに、ね」
「あなたに会えた時の喜びを大きくするためですよ。会えない分の悲しさが、会えた時の喜びを大きくさせる」
「ねえ二人とも、悪ノリやめなよ」


するとつまらなそうな顔をしたコナン君にそう言われ、昴と二人でおや、と肩をすくめる。
するとコナン君の胸に付いているバッジが何やら鳴って。


「コナン君!名前お姉さんもう隣に来てるんだよね?」
「博士が名前さんにも、探偵団バッジじゃないですが連絡機能付きのバッジを作ってくれたんです!」
「こっち来いよ!スイカもあるぞ!」


どうやら隣の家にいる少年探偵団からだったらしい、コナン君は返事をすると私を見上げる。


「もう二人が会ってたんならいいや。とりあえず今日は博士の家に行こう」
「おや、残念ですね。せっかく名前とまた会えたっていうのに」
「ふふ、悲しまないで昴。ロマンチックなエンディングの前には試練が付き物さ」
「…ねえ、二人ってこの前初めて会ったんだよね?息ピッタリだね…」




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